桜さくら堂

いらっしゃいませ! 今日もあなたのために、とっておきのお話をご用意しました。

物語

ザリガニ・クラブ

[ 創作 ]YUYU作 ≪ 大河の話 ≫ 中学1年になって早々に、進路相談の発表があった。 「もうすぐ夏休みだってのにな」 大河がぶつくさ文句を言ったら、 「吉木くん、早めに将来のこと決めといた方が勝ち組になれるわよ」 隣の席の佐藤さんが言った。この間ま…

★ シロクマの星 ☆彡 

今日はクリスマス・イヴなので、 桜さくら堂を訪れてくださったみなさんに、 YUYU作のお話をプレゼントしますね。 どうぞ、お楽しみください。 ★ シロクマの星 ☆彡 YUYU 満天の星がきらめく北極の雪の原に、シロクマ家がありました。降りつもった雪山を掘っ…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ⑫

「やめろ」 ひどい濁声がしたのは、エンディングの少し手前だった。それを無視して、弾き続けた。 「おい、聴こえねえのか?」 「ちょっとあんた達、待ちなさい」 マリアさんが制止した。それを振り切って、どやどやと複数の足音が近づいてきた。先頭の月面…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ⑪

六 再び、B&Bにて みぞれは夜半過ぎに雪へと変わり、朝にはまた冷たい雨になった。謙太郎はその夜に、40度近い熱を出してダウンした。熱はすぐに下がったが、咳が出るようになった。咳はしつこく、日増しに酷くなっていった。 心配した広尾が会いに来た…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー⑩

そして、広尾が笑った。 無邪気な笑顔だった。ああ、こいつ、こんな風に笑うんだと思った。ぼやっとしていて、ステージを降りる時につまずいてコケそうになった。 「実は、おれな」 広尾がふり向いて何か言おうとした時に、耳をつんざくような音が鳴り響いた…

横須賀ドブ板通りストリート・ストーリー ⑨

夏が過ぎ秋になって、ハロウィンが終わった。街にはクリスマスの飾り付けが始まっていた。ついに一曲仕上がった。それはボビー・シモンズのモーニンというファンキー・ジャズの代名詞のような曲だった。 哲男はなかなかの出来だと言って、めったに見せない笑…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ⑧

五 音が灯る街角で 「こんにちは」 広尾が家にやってきた。 「あら、いらっしゃい。謙太郎がお友達を連れてくるなんてめずらしいわね」 桃子が笑いかけた。 「広尾竜一です」 名前を聞いたとたん、桃子の表情がこわばった。 「じゃあ、あの……」 「あのって、…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ⑦

修二が再びピアノを弾き始めた。オフビートの滑らかな曲が流れた。謙太郎はつっ立ったまま、子供の頃の記憶を辿ろうとしていた。すると、 「あんた、ワルでしょ」 いきなり背後から、ハスキーな女の人の声がした。振り返ると、ブラウンのソバージュ・ヘアに…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ⑥

4.ビギン&ビギンにて 「五号車どうぞ」 ≪ はい、五号車です ≫ 「基地入り口、交番前で重田様お願いします」 西横須賀タクシー有限会社は、謙太郎の家の真向かいにある。宗一郎が祖先から受け継いできた土地を売ってタクシー会社を始めた時には、タクシー…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ⑤

「驚かすなよ」 取っ手を持ったまま言った。 「気にしなくていいよ。どうせそこ、もとから壊れてんだ」 「ちえっ」 「中にチェスのコマが入ってるんだ。テーブルの上で出来るようにね。……で、何しに来たの?」 「あ、そうだった」 謙太郎は、カバンを出して…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ④

3.ドブ板通りで ドブ板通りは、夕暮れとともに目覚める。そして、夜が更ければふけるほど、その表情が生き生きとしてくる所だ。とはいっても、日中はそうでもない。通りも明るいし、表通りと何ら変わりがない。学校から広尾の家へ直行した。 ドブ板通りを…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ③

「あの青空のところに、何かとても大切な物を忘れてきてしまったって言ってるの、この詩の作者は。それは何かしら?」 クラス担任でもある現代国語の桐生先生が言った。桐生先生は大学を出たばかりの女の先生で、『ペガサス』とかいう全国的な詩のサークルに…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ②

2.ミス・ヒールのクラスで 米ヶ浜通りバイクひったくり事件4--は、人づてに伝わるうちに、謙太郎がバイクを追いかけて犯人を捕まえたということになっていった。そのため学校では、ちょっとしたヒーローになった。夏休み前の今頃になって、陸上をはじめ…

横須賀ドブ板ストリート・ストーリー ①

1.米が浜通りで 夕暮れ間近に、謙太郎が横須賀の米ヶ浜通りを軽快に走っていると、後方から二人乗りの中型バイクが軽く追い越していった。後ろの男は、冬でもないのに黒いスキー帽を目深にかぶっていた。バイクは2メートルほど先を歩いている女性の真後ろ…