「こんには~~♬」
「あ、久しぶりですね、♭ (フラット)さん」
「コロナ自粛していたからね。
家にこもって、ボクは自分の使命について考えてみたんだ」
「使命……ですか。
それで見つかったんですか?」
「まあね。見つかったっていうか、
向こうからやって来るみたいなんだ」
「で、お飲み物は、いつもので?」
フラットさんは、軽くうなずいた。
「ただし、それには条件があってね」
「なんか難しそうですね」
「簡単か、難しいか、それは人によると思うよ」
「で、どんな条件なんです?」
私はキリマンジャロのコーヒーを淹れながらたずねた。
「3か月の間……、
ぐち、悪口、文句、泣き言、不平不満を一切口に出さない
ってことなんだ」
「へえ~~、そりゃ大変だ!!」
「思うことはいいんだ、口に出しさえしなければ」
「それなら、出来そうですね。
で、どうだったんです?」
「それがね、me(ミイ)がいるだろ、
つい、言ってしまうんだよ。
うるさいって。
気がついたら、言ってる」
「そうなんですか」
淹れたてのキリマンジャロを、
そっとカウンターに置いた。
「1つでも言ったとたん、リセットされて、
最初からやり直しってわけさ。
修行だと思って、なんとか頑張ってさ、
今日でやっと達成ってわけなんだ。けど……
じつは、ついさっき言ってしまったんだ」
フラットさんはコーヒーをすすりながら、
ふうっと、一つ、ため息をついた。
「それで、もし達成できたら、どうなるんです?」
「それが面白いんだ。
小林正観さんという人が言うのにはね、
頼まれごとが来る
って言うんだ。
その頼まれごとをやっていると、
また次の頼まれごとがやってくる。
それを素直にやっていくうちに、
自分の使命につながっていくようになる
っていうのさ」
「……頼まれごとねえ……」
「斉藤一人さんという人も同じことを言っているんだ。
最初は、ほんのささいなことらしいんだ。
斎藤一人さんも、小さな頼まれごとを1つ1つやっていくうちに、
億万長者になったそうなんだよ。
しかも、それが多くの人のためになって、
使命だったってわかったそうなんだ」
「へえ~~、それは面白そうですね。
やってみようかな。
私には、いったいどんな頼まれごとがくるんだろう?
しかも、それが自分の使命につながるなんて、
すごいことじゃないですか!!」
「まあね……」
「フラットさん、もう1度、
いっしょにやりましょう」
フラットさんはカップを置くと、
小さく笑った。
ドアを開けるフラットさんの背中に向かって、
「フラットさん、また来てくださいよ、
そうして、また
面白いお話を聞かせてくださいね」
と、私は頼んだ。