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霧のむこうのふしぎな町/柏葉 幸子/感想レビュー

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霧のむこうのふしぎな町/柏葉 幸子/竹川 功三郎・絵/講談社

 

感想

主人公は小学6年生のぽっちゃりした女の子のリナ。

夏休みに「たまには変わったところもいいもんだぞ」というお父さんの勧めで、霧の谷というところへ向かった。

リナは1人で静岡から東京と仙台で電車を乗り換えて、無事目的の駅に降り立ったものの、すごい片田舎で、来るはずだった迎えもなく途方にくれてしまう。

迷子か家出と怪しまれながらも、すでに廃坑になったという銀山村の方角に行ってみる。そして、山の中のヒマラヤ杉の間を行くと、霧が立ち込めて・・・やがて霧が晴れると、目の前には西洋風のおしゃれな街並みが・・・。

 

とつぜん、風がブワーとふいた。森はいっせいにガサゴソといい、かさがぱっとひらいて、風にとばされた。リナは、つかまえようとしたが、かさは二本のヒマラヤすぎのあいだにかくれてしまった。リナは、かばんをつかむと、あわててそのヒマラヤすぎのあいだにとびこんだ。

 

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ここがファンタジーの入り口になります。

ファンタジーは入り口と出口が、とても大切です。

じつにリアリティがあります。リアリティがあると、本当のことのように思えて、そこから先へと、するすると不思議な世界に入っていけるのです。

リアリティがあるのは、もっと前の田舎の駅に降り立ったころの、

 

ホームが一つで、木のベンチが二つてあるだけの、小さな駅。舗装れていない道ばたの雑草にも、駅の建物も、土ばこりがあつくかかっている。そのせいか、町が白っぽく見える。一台の自動車と、二、三人人が、のろのろと動いている。はりきっているのは、太陽だけのようだった。

 

もしかして、あなたはこういう田舎をどこかで見かけたことがありませんか?

私の母の実家がこういうところでした。ここで、もう、ぐっとこの話に引き込まれてしまいます。

でも、こういう現実の世界もいいですが、ほんとうは誰でも、今とは違う、もっとすてきな場所へ行ってみたいと思っているものです。

どこか異国情緒があって、現実のいざこざから解放されるようなところへ。

 

この話は、最初の現実世界の描写がとても上手いので、そのままファンタジーの中へ無理なく入っていくことができます。

入ってしまえば、とりあえずは何でもござれで、作者のルールがこの物語の世界を支配します。なんて楽しいことでしょうか。

読者はいっとき、この憂さの多い現実から逃れて、楽しい物語の世界で遊べるのです。

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森の深い緑の中には、赤やクリーム色の家があり、石だたみの道は雨がふったあとのようにぬれていた。森の中に、たった6けん。しいんとしてだれもいないようだ。まるで外国へでもきたみたいだった。

 

さて、ここはあの人気番組の“ぽつんと一軒家”ではなくて、ぽつんと6軒家です。しかも、西洋風の街並み

1つがリナが泊まることになる下宿屋ですが、他の5軒は、本屋、海の店、せとものの店、お菓子屋、おもちゃ屋などのお店なのです。

そこの店主も、それぞれ個性豊かな人達ですが、売っているものも面白いし、そのお客もどこか変です。

それに、そもそもこんな山深い森の中へ、いったい誰が買いに来るというのでしょうか?

 

そしてまた、リナが泊まることになったピコット屋敷という下宿屋は、家主のピコットおばあさんはじめ、下宿人もみんな変わり者ばかりです。

大きくて丸くて真っ赤な鼻をしたイッちゃん。真っ白いかっぽう着を着たキヌさん。名コックのジョン。それから、金色の毛で、緑色の目をした大きなねこのようなジェントルマンなど、個性豊かなキャストばかり。

なんとなく面白そうな展開を予想させてくれます。

 

ピコットおばあさんは、「働かざる者食うべからず」といって、リナにそれぞれの店に働きに行かせます。

そうして、色いろな事件や出来事に遭遇して、やがてリナは『霧の谷』の秘密に気づいていきます。

たとえば、本屋さんでは、

 

「おかしいなあ。あそこをまがると、いつもの古本屋のはずなんだけどな。こんな店あったかな」

 

といいながら、予備校通いの学生が入ってきて、詩集を持っていきます。

店主が代金はいらないといったので。そして、この店のことをこう説明します。

 

「この町は、いろんなところとつながっているの。距離なんてないの」

 

不思議ですね。でも、こんなお店がどこかにあったならって、思いませんか。

向かいの海の店「バカメとトーマスのいる店」では、

 

ここへ海の男だという船長が、ふらっとやってきます。

彼の父も祖父も船乗りだったのですが、自分の船を持てませんでした。祖父はいつか自分の船を持ったら、船長室に置くのだといって1つのランプを大切にしていました。

男はやっと船を持てたが、祖父から受け継いできたランプを、シケで失くしてしまったのです。

そのランプが、なぜかこの店にあるのです。

 

「そうだ。これだ。まったくおなじだ。ここにネプチューンの像がついている。これだ」

と、手にとってうれしそうにながめた。

船長さんは、ランプをなでまわしながらきいた。

トーマスは、

「いりませんよ。あんたのものだから」

とこたえた。トーマスの茶色の目は、きらきらひかった。

 

この『霧のむこうのふしぎな町』は、ファンタジーですが、大冒険も、壮大な魔法も、激しい戦いもありません。こんな所はあるはずがないのに、もしかしたらどこかにありそうな町のような気がしてきます。

出てくる人達もちょっと変わりものですが、なれ親しんだ誰かのようで、愛すべき人物ばかりです。

ただし、この『霧の谷』に行くことができるのは、リナのような心を胸に秘めた人だけかもしれません。

なぜなら、このファンタジーは楽しいだけでなく、ちょびっとだけ真実も混ぜてあるのですから。

せともの店でシッカが粉をふりかけて、せとものが本当の姿になったように、

もしかしたら、大切なメッセージがどこかに隠れているかもしれませんよ。

 

作者 柏葉幸子(かしわば さちこ)

1952年岩手県に生まれる。東北薬科大学卒業。

1975年講談社児童文学新人賞を受賞。

同書にて日本児童文学者協会新人賞を受賞。

「地下室からのふしぎな旅」「天井うらのふしぎな友だち」

「ふしぎなおばあちゃんがいっぱい」「かくれ家は空の上」

 

 

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お題「我が家の本棚」

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