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編集者ぶたぶた[ぶたぶたシリーズ]矢崎亜在美/感想・レビュー

編集者ぶたぶたには、5つのお話がありますが、

山崎ぶたぶたさんはもちろん、編集者になって登場します。

もっとも1編だけは、元編集者になっていますが。

 

ぶたぶたさんは主人公ではないんですが、どのお話でも、主人公の悩みを素敵に解決に導いていきます。外見はぶたのぬいぐるみなんですが、中身はとてもすてきなおじさまなんですよ。

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編集者ぶたぶた/矢崎 在美 作/光文社文庫

お題「好きなシリーズもの」

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📚書店まわりの日

 

大手出版社が立ち上げたウエブマンガ雑誌で連載中の伊勢千草は、対人恐怖症気味で、人と会うのが苦手な中年のマンガ家さん。

少女マンガ家としてデビューしたものの、あまりパッとしないまま連載が打ち切りになって、バイトに明け暮れているところを、ぶたぶたさんから声がかかったのだった。

ちょっと、あの~、ヘルパーになったマンガ家さんのことが、脳裏をよぎったりもします。

 

千草が対人恐怖症になったのは、友達だと思っていた子がとつぜん態度を変えて、悪口を言われたり仲間外れにされたりしたことが原因とか。

そういうわけで、担当者の山崎ぶたぶたさんとは、電話とスカイプで話しているだけ。

でも、渋い男性の声で、とても心地よい。こっちが言葉が出なくても、静かに待っていてくれる・・・のだという。

スカイプでは画面にぶたぶたさんが映っているが、それはぶたのぬいぐるみを出しているのだと思っているのです。

 

そのぶたぶたさんが新刊を出すにあたって、「書店まわりをしてみませんか?」

と言ってきます。

悩んだすえ、ぶたぶたさんが一緒なら大丈夫だろうとOKします。

ここからですね、ぶたぶたさんの本のお約束の出会いの瞬間が訪れます。

 

池袋で待ち合わせをしたが、それらしい人はいなかった。いたのは、バレーボールくらいのぬいぐるみだけ。

「今日はよろしくお願いします」ぬいぐるみがぺこりと頭を下げる。

・・・声が出ないので、ガクガクとうなずく。

 

おもしろいですね。人ごとながら、なんだか愉快です。

この後、新宿、池袋、渋谷、東京、お茶の水、神保町などの大きな書店をめぐって、「よろしくお願いします」と挨拶をするわけなんですが、なんとなくあの書店かな、

と情景が浮かんできてなんとなく懐かしかったりもします。

「一日、知らない人とばかり会って緊張したけど、うれしさが上回って、びくびくする暇もなかった」

書店まわりが終わって、高層ビルの地下パスタハウスで食べていたら、なんと、となりの女性が千草の新刊の本を出すのです。

 

これは衝撃的です!

多くの作家さんにとって、自分の本を読んでいる人を目撃するのは、感動的な瞬間なのです。夢ともいえますね。

千草はこの女性に、声をかけたいのですが、できないのです。なにしろ、対人恐怖症気味なので。

ここでもぶたぶたさんが、そっと背中を押してくれて・・・。

 

📚グルメライター志願

 

高校までスキーの選手で、今は大手のスポーツ用品店の広報課で勤務していいる若松成久は、上司の誘いであちこち食べ歩いているうちに食に関心を持つようになります。

いつしか美味しい店を自分で探したり、コンビニの新商品やカフェのスィーツなどをブログで紹介したら、それが好評で、いつかグルメライターをやりたいと思い始めます。

 

そんな折、スキー部の先輩に、只野猫月(ただのねこづき)さんというグルメライターを紹介されて、取材の手伝いをすることになります。

ここへ一緒に来たのが、編集の山崎ぶたぶたさんです。

 

駅前のストリートシンガーの前に、ぬいぐるみが立っていて、歌がおわると、

ぽふぽふぽふ

どこかからそんな音が――ぬいぐるみが動いていることに気づく。

どういうことなのか、成久は混乱していた。

となります。

しかし、まあ、只野猫月さんが普通に接しているので、彼も自分なりに納得して、

(納得するんだ)一緒にアジアンスィーツのお店へと取材に行きます。

台湾スィーツらしいんですが、私はあまりこれ、知りません。でも、心配はいりません。なぜなら、注文しながら、解説を加えていくからです。

たとえば、こんなふうに・・・・

「豆花(トウファン)って豆腐みたいなものですよね?」

「そうです。甘くてつるつるした豆腐で、食感はプリンみたいなものですね」

千草ゼリーは、

「少し薬草のような香りが広がる。甘いがけっしてくどくない。つるんとしたゼリーだから、舌にのせるとすっと溶ける。後味がさっぱりしている」と。

 

こうやって、同じようなお店を何軒もはしごします。

どこでもしこたま注文し、パシャパシャ写真を撮って、すべてきれいに食べて、短時間でさっさと失礼するのくり返し。

成久はグルメライターの難しさを、肌で知ることになります。

読者も同じく。読者も、たぶん、おなかいっぱいになりますよ。

 

「最後に1軒だけ、寄ってもいいですか?」

ぶたぶたさんが聞きます。

「でもそこ、食べられないと思うな」と・・・。

 

📚長い夢

 

湊礼一郎は小説家としてデビューして10年。酒も飲まないし、パーティも苦手、あまり編集者とも会わないで過ごしてきました。

今は昔と違って、編集者が原稿を取りに来ることもないし、メール添付でOKだから、編集者と会うのは面倒です。

ところが、今度の編集者は、断っても断っても、「ぜひ、お会いしたい」と言ってきます。そこで会うことにしたのですが、待ち合わせのメールに、

「驚かせてはいけませんので書いておきますが、私はぬいぐるみです」

とあります。

もちろん、礼一郎は本気にはしていません。そして、会います。

 

「初めまして、山崎と申します」ぬいぐりみが片手を差し出しながら近寄ってきた。

夢かな・・・? 夢かも。そう思って、礼一郎はちょっと落ち着く。

 

礼一郎は常識人ですから、夢として納得するわけです。

夢だと思っているから、ふだんは言わないような心の内のことも、ためらわずに話してしまいます。こわいですね。

「何か書きたいものがありますか」と尋ねられ、いつもだったら配慮して言わないことをぺらぺらと話しはじめます。

他愛もない家族のことや父親のことを、編集者ぶたぶたさんの質問に答えて話しているうちに、構想がふくらんでいって、SFっぽくなったりします。

「こんなの売れないですよね」

「いや、面白そうですよ!」

となり、新境地を開いていくことに・・・・。

 

礼一郎はぶたぶたと一緒にラーメンを食べて別れるが、後で、夢ではなく現実であることを理解していく。そして、

「ラーメン、とても気に入ったので、来月の出張の帰りにまた食べに行こうと思っています。その時、またお会いできたらうれしいです」

編集者ぶたぶたからメールがあったのでした。

 

編集者ぶたぶたさんは、とても優秀な編集者さんですよね。こういう編集者さんを、作家はみんな欲しいのではないのでしょうか。

 

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📚文壇カフェへようこそ

 

大きな出版社で文芸の編集をしている堀川麻紀は、高圧的な上司からいつもダメだしをされて疲れきっていました。企画書がボツならまだしも、無視されていつまでも机の上に放り出されていたり、確認書類を後回しにされたり、彼の雑用を先にやらされたり・・・・。

特にひどいのは、麻紀が担当したいと思っていた若手の作家を、こきおろされ、絶対担当にさせないと言われたこと。

 

麻紀が仕事で疲れきって裏道をさまよっていると、古い雑居ビルで『文壇カフェ』に出会うのです。

文壇カフェ・・・なんだか、いい響きですね。

私も昔、新宿にある文壇カフェにいったことがありますよ。地下にあって、こう、落ち着いた感じで、ながく居座れるような・・・喫茶店でした。少々、お高かったですけどね。

この作品に出てくる文壇カフェは、ぶたぶたさんがオーナーなので、かなりステキな雰囲気です。ぶたぶたさんは、元編集者さんになっています。

 

大きな窓ガラスが鏡のように店内を映している。壁一面の本棚。本棚も壁も、分厚い一枚板のカウンターもテーブル席も、磨かれてピカピカだった。

壁ぎわには、ハンモックがいくつか吊られている。

音楽はほとんど聞こえないこらいのクラシックがかかっている。

 

ハンモックまであるなんて・・・。

で、出会いの瞬間は、こうなっています。

 

「いらっしゃいませ。こちらがメニューです」

目の前にピンクのぶたのぬいぐるみがいた。

ばっちり目が合って、麻紀は硬直する。

「大丈夫ですか・・・?」隣に座っていた若い女性に声をかけられる。

 

じつはこの女性が、一緒に仕事をしたいと思っていた作家さんだったんですね、後でわかるんだけど。

ぶたぶたさんは麻紀にも、作家さんにも、いろんなアドヴァイスをしてくれます。

「やっぱり、この作家さんと仕事がしたい」

と思って、麻紀はある決心をするのです。

 

とにもかくにも、こんな喫茶店、どこかにないでしょうかね?

 

📚流されて

 

不幸な結婚の末に離婚して、働きながら一人暮らしをしている50代の女性、福安かほりは、久しぶりに原宿をぶらぶらしたいと思って、電車に乗ります。

電車の中で、幼い子供が泣きだして困っているのを助けて、そのまま成り行きでついていきます。母親は大極明咲といって、仕事の面接に行くという。

子供の面倒を見ながら、その明咲についていって、かほりは編集者ぶたぶたに遭遇します。

 

「マグノリア編集部の山崎です」

そのぬいぐるみはトコトコ歩いて、こっちに寄ってきた。

え、何? こんな映画、この間見た気がする。

 

こうですね。そして、かほりも

「モデルのオーディションに参加してみませんか?」と誘われるのです。

50代の読者モデルの応募が無かったので。

 

明咲はオーディションに受かり、子供も保育園に入れて働きはじめ、かほりも1回だけでいいから、モデルをやってほしいと頼まれます。

かほりは人生をふりかえって、流されやすいと思っていましたが、

「流されるのがダメなんじゃなくて、その流れを信頼できるかどうかが大切」

だと。

そして、この流れを作っているのは、ぶたぶたさん・・・。

 

f:id:sakurado:20211013112733p:plain ぶたぶたさん、面白かったですね。

どの主人公も年齢も立場も性格もまったく異なるのですが、それぞれに悩みを抱えています。それがぶたぶたさんに出会うことによって、まるで魔法にかかったように、人生が好転していくのです。

とても後味の良い短編になっています。

ちなみにぶたぶた誕生のきっかけは、モン・スイユというメーカーが出しているぶたのぬいぐるみのショコラだそうな。

 

第5話のマグノリア編集部のマグノリアは、日本名の紫モクレンのことです。

ジャズ史上最高の女性といわれているビリー・ホリディが好きだった花で、いつもこのマグノリアを髪にさして歌を歌ったそうです。

じつは彼女の歌は美しいとは言い難く、声量もなく、声域も狭かったのです。

しかし、ビリーは比類のない表現力の奥深さがありました。

恋する女の喜びや、捨てられた女の悲しみを、ビリーほど美しく、深く、品位をもって歌える歌手は他にいなかったのです。

また他の楽器に耳を傾け、自分の声を効果的に使うという能力も持っていました。

 

 

作者:矢崎 在美さん

埼玉県出身。1985年、星新一ショートショートコンテスト優秀賞を受賞。

1989年に作家デビュー。「ぶたぶたシリーズ」のほか、「食堂つばめ」シリーズなど。

 

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感想(2件)

 

 

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