切手にコイン、人形やジュースのびんのふた。
みなさんも集めたこと、ありませんか?
わたしの父は子供のころ、石を集めていました。
ひまを見つけては、石垣のまわりや古い採石場をさがして歩きました。
まわりの人たちはいいました・
「あいつは、ポケットにもあたまのなかにも
石ころがつまっているのさ」
Rocks in His Head あたまにつまった石ころが
キャロル・オーティス・ハースト 文/千葉茂樹 訳
ジェイムス・スティーブンソン 絵 /光村教育図書
このお話は、娘の目線から父親のことを物語っています。
父親の名前は直接語っていませんが、
父はおとなになると、マサチューセッツ州のスプリングフィールドという町で、
「アントラ―・フィリング・ステーション」というガソリンスタンドを始めました。
とあるので、アントラ―という名前なのかもしれません。
本当は、なにか、石とかんけいのあることを仕事にしたかったのですが、
「石ころじゃあ、金にならんぞ」
と祖父に言われたからでした。
本人も、そう思っていたようです。
ガソリンスタンドの奥の壁には棚をつくって、石をならべました。
彼は当時人気があったT型フォードの車を分解しては組み立てて、車の構造がわかるようになると、車の修理をするようになって、ガソリンスタンドは繁盛しました。
ガソリンスタンドの仕事は大忙しですが、その合間には、
「この石はどこで見つけたんだい?」
お客さんがたずねると、父は答えます。
「それはニュー・ハンプシャーの鉱山のゴミ捨て場で見つけたんです」とか、
「ネバダからきた友だちと交換しました。かわりにコネチカット産のガーネットをあげたっけ」とか。
と、やっぱり石の話をするのです。
大恐慌が起こって、ガソリンスタンドはヒマになったので、彼は子供たちと石を探しに行くようになります。
やがて店はつぶれて、一家はボロ屋へ引っ越しますが、彼は石を屋根裏部屋に運んで棚に並べました。
「もし、あの石ころが、いつかなにかの役に立つと思ってるんだとしたら、あなたのあたまには石ころがつまってるのね」
母はいいました。
「あぁ、そうかもしれないな」
父は、ポケットから石を出してつづけます。
「ところで、ほら、これを見てごらん」
まったく彼は、イヤミなど意に介しませんね。
家族(奥さん)にとっては、イラっとするところです。
だけど、ちゃんと家族のために彼は一生懸命仕事を探して、どんな仕事でも引き受けてやっています。
それはどれも日雇いの仕事でしたが・・・。
そして仕事が見つからずに、雨が降っている日には、科学博物館に行って、展示された石をながめて過ごしていました。
そこで彼はグレース・ジョンソンという女性の館長と知り合いになります。
彼の石に対する情熱と博識から、博物館の夜の管理人になりましたが、やがて専門家の「鉱物学部長」として雇われることになりました。
でも、その知らせを受けたときにも、彼はこういったのです。
父は、ポケットからひとつ、石をとりだしていいました。
「ところで、ほら、ちょっと見てください。
いい石を見つけたんですよ」
彼は働きながら大学に通い、ジョンソンさんが退職すると、その後を継いでスプリングフィールド科学博物館の館長に就任したのだそうです。
この話は創作というよりも、むしろノン・フィクション童話絵本なのでしょう。
著者である娘のキャロルさんは、最後にこう語っています。
父ほど幸福な人生を送った人を、わたしはほかに知りません。
と。
著者 キャロル・オーティス・ハースト Carol Otis Hurst
マサチューセッツ州スプリングフィールド生まれ。オハイオ州で教師を務めたあと、マサチューセッツ州にもどり、学校図書館の司書となった。
ウェストフィールド近くに住み、創作のかたわら、子供や教師、図書館員のための児童書のワークショップを主催した。
あたまのなかに本がつまった作家として活躍した。
彼の頭のなかには石っころがつまっていることは確かです。
人生の中で、生活の浮き沈みがあっても、つねに大好きな石を身近にして過ごすことができたのですから、彼は幸せな人生だったろうと思います。
人生で何が大切で、何がそうでないのか、私たちは忙しい日常の中で見失ってしまいがちです。
そしてまた彼は、「学ぶ」とはどういうことなのかも教えてくれています。
このような生き方を知ると、私はやっぱり虔十(宮沢賢治の虔十公園林)のように、にやにやしてしまいます。
あぁ、どの国にも虔十のような人間がいるんだなぁ・・・
ほんとうの幸せが何なのか、それを考えもしないほど、幸せに生きている人がいるんだなぁ・・・
と、うれしくなってしまいます。
私の頭のなかには、何がつまっているのかな?とふってみると・・・
ああっ、ヤバイ音がしますっ!!
「からっぽ、からっぽ」
って、聞こえますぅ~~~💦
さて、あなたの頭のなかには、いったい何がつまっているのでしょう。
あたまにつまった石ころが [ キャロル・オーティス・ハースト ]
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