きこえてくるのはラヴソング
さあ 泣かないで
さあ 立ちあがって
耳をすまして
いつでも
だれかが くちずさんでいるはず
あなたへの ラヴソング
おもいだして
あの日の ラヴソング
ほら
明日のあなたへの ラヴソング
風のラヴソングは作者の越水利江子さんが、自身の子供時代をふり返って、
あのころ、読みおわったあと、力になる物語に出会えていたらと・・・
そんな気持ちから、
今もたたかいつづけているひとりぼっちの幼い戦士たちのために書きつづった少女・小夜子の一生を通して描かれるさまざまな「愛」の物語です。
越水利江子・作/中村悦子・絵/講談社・青い鳥文庫
ふわりふわり
れんげ畑のむこうから、白いレースのパラソルが泳いでくるみたいに見えた。
ふわあり、ふわあり、浮きあがったり、沈んだりしもって、だんだんと近づいてきた。
れんげ畑のうしろは、雲ひとつない、真っ青な空なので、白いパラソルはまいごになった雲のきれはしのようにも見えた。
この美しい幻想的な情景を見ていたのは、まだ物心もつかない幼い主人公の小夜子の兄で、小学高学年の武志です。
母親は去年死んでしまい、父親も留守なので、小夜子と武志が家の中からぼんやりと見ているのです。この話は、武志の視線から語られています。
冒頭のこの描写だけで、ぱあーっと一枚の絵が浮かんでくるような秀逸な表現です。
あとでわかることですが、こんなふうに、ふわりふわりと、運命が近づいてきたのです。
2人が雲のような真っ白いパラソルを見ていると、やがて女の人とハンチングをかぶった黒めがねの大っきいおっちゃんが現れてきます。
この女の人が亡くなった母親の姉で、武志の伯母さんにあたる人になります。
ここは四国で、2人は京都から来たのでした。
伯母さん夫婦はしばらく武志の家に泊まりますが、その間、なぜか父親は帰ってきません。武志はそれを不審には思いますが、母親が亡くなってから小夜子の面倒ばかりみていて、友達ともじゅうぶん遊べなかったのです。
それが伯母さんが小夜子の面倒を見てくれるから、川遊びなどに行けてうれしかったりもするのでした。
やがて伯母さん夫婦は、小夜子に「紙ふうせんを買うてやる」となだめながら日曜市に連れていき、そのままもどってこなかったでした。
武志はうつらうつらと、白昼夢を見ます。
ぼくは、あけはなしたままの縁側から、れんげ畑を見た。
日の暮れかかったれんげ畑のあぜ道を、いくつもの紙ふうせんの明かりが、ふわり、ふわりとのぼっていく。
見えかくれするきつねの白いしっぽにまじって、小さい人かげが見えた。
白地に、赤い金魚のゆかた。
「さよこっ!」
ぼくは外に飛び出した。
「こらあ、さよこをもどせ!」
そうさけんだとき、なにもかも、はっきりわかった。
こうして小夜子は、伯母さん夫婦にもらわれていったのです。
父親はその翌日にもどってきて、
「よう、あれは帰ったか?」
と、いいます。
つまり父親は、このことを前もって知っていたのです。
知っていて、武志が混乱したり悔しがったり、いろいろ辛い思いをするとわかっていながらも、どうしても帰ってくることができなかったのです。父親は娘と別れるのが辛くて辛くて、姿をくらましていたのです。
その辺りのことは書いてありませんが、母親が去年亡くなったというのですから、父親は父親なりに男手でせいいっぱい幼い娘を育てようと頑張ったのだろうと思われます。
が、とうとう無理となって、か、説得されてかわかりませんが、もしかしたら、武志がまだ小学生なのに妹の面倒をみていて遊びににも行けないのを不憫に思ったのかもしれません。あるいは娘の幸せを願ったのか・・・・。
いずれにしろ、小夜子が連れていかれるのにもどって来なかった父親を武志が責めると、いろいろ苦しい言い訳なんかをします。
「おまえ・・・さびしいかえ?」
れんげ畑をながめたまま、父さんがいうた。ぼくはだまっていた。
れんげ畑のむこうは、青い青い空やった。
「父さんのバカヤロウ・・・」
ぼくは声にならん声でいうた。
「ん・・・」
まっこと、そうじゃ・・・と、父さんがつぶやいた。
切ない話です。
でも、誰もが悪くなく、ただ小夜子を心の底から愛しているのがひしひしと伝わってきます。
小夜子を愛するがゆえに、手離した父親を誰が責めることができるでしょうか・・・。
このお話は、作者の人生が土台になっていて、小夜子のこれからの幸せを願わずにはおれませんね。
※ 風のラヴソングは、どれも短いお話になっていますが、どれも内容が深くて濃い作品なので、ぜひ深く味わっていただきたいので、何回かに分けて感想を書いてみたいと思います。
著者紹介:越水利江子さん
高知県生まれ、京都育ち。
「風のラヴソング」(岩崎書店)で、日本児童文学者協会新人賞、
文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞。
「あした、出会った少年」(ポプラ社)で、日本児童文芸家協会賞受賞。
他に「花天新選組君よいつの日か会おう」(大日本図書)、
「竜神七子の冒険」(小峰書店)、「ぼく、イルカのラッキー」「月夜のねこいち」(共に毎日新聞社)、「忍剣花百姫伝」シリーズ、「こまじょちゃん」シリーズ(共にポプラ社)、「霊少女花」シリーズ(岩崎書店)、「百怪寺・夜店」シリーズ(あかね書房)など、ヤングアダルト、エンターティンメント、幼年絵本まで作品多数。
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