桜さくら堂

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風のラヴソング[みきちゃん]越水利江子【児童文学】感想・レビュー

きこえてくるのはラヴソング

さあ 泣かないで

さあ 立ちあがって

耳をすまして

 

いつでも

だれかが くちずさんでいるはず

あなたへの ラヴソング

 

おもいだして

あの日の ラヴソング

ほら

明日のあなたへの ラヴソング

 

風のラヴソングは作者の越水利江子さんが、自身の子供時代をふり返って、

あのころ、読みおわったあと、力になる物語に出会えていたらと・・・

そんな気持ちから、

今もたたかいつづけているひとりぼっちの幼い戦士たちのために書きつづった少女・小夜子の一生を通して描かれるさまざまな「愛」の物語です。

 

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越水利江子・作/中村悦子・絵/講談社・青い鳥文庫

お題「我が家の本棚」

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みきちゃん

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 みきちゃんは、ええかげんでうそつきや。

路地の子は、みんなそういうてる。いつかも、東福寺の山で、蝶々のオオムラサキを見たいうて、うそついた。

 

 みきちゃんというのは幹夫という男の子で、ウソつきです。みきちゃんの父親は酒癖が悪くて、飲むと暴れていつも大騒ぎになるのでした。

小夜子の両親も近所の大人も子供も、みんなみきちゃんと遊んだらダメだと言います。でも、遊んだらダメな本当の理由は・・・

 

小夜子はみきちゃんと遊んだことがありました。

なぜなら、その日は仲間外れにされたり、テストの点数が悪かったり、お父ちゃんに怒られたりして最低の日だったからです。

 

 しょぼくれて、縁側にすわって雨を見ていたら、向かいの板塀から、黒い顔がひょいとのぞいた。

「さよちゃん、あそぼか?」

 そういうて、みきちゃんは、にやあと笑った。うちもつられて、にやあと笑った。

 

みきちゃんは東福寺の山の秘密のかくれ家を教えてくれて、ここはみきちゃんのお母さんがヒステリーを起こした時に逃げてくる場所だと言うのでした。

みきちゃんのお父さんはお酒を飲むとしょっちゅう暴れるのだけれど、昼間はおとなしくて、男の俳優みたいにきれいな顔をしているのです。

そして、子供たちが花火をやっていると・・・

 

 みきちゃんのお父ちゃんは、じっと空をにらんで、

「ほんまに、さっぱり見えへん」と、くりかえした。

つられて空を見上げてみたら、路地の屋根と屋根のあいだの小さな空に、こまかい星がチカチカ光っていた。

「わしの生まれたソギポの星は、こんなもんやない。

海辺の石垣にこしかけているとな、一晩のうちに、数えきれんほどの星が落ちてきてな・・・

いっぺんに3つも、4つも、シャーシャーと降ってくるのが見えるんや・・・」

 

 白木のおっさんというこの人は、日本人ではないのです。

そして、小夜子はなぜ、周りの大人たちがそのことを理由にして遊んだらダメだと言うのかがわからないのでした。

大人がいうのをそのまま鵜呑みにしないで、小夜子は純真な子供の心でそう思うのです。

 

 そのうちにみきちゃんのお父さんがお酒を飲んで大暴れして、警察がきたり、救急車がきたりして、大騒ぎになってしまいます。

小夜子が海水浴に行く時に、みきちゃんが「カニ取ってきて」といいますが、それを最後に、みきちゃんのお母さんからひどく叱られて遊ばなくなってしまうのです。

小夜子は約束したカニを取って帰りますが、みきちゃんとは会えないまま、カニは10日めに死んでしまいます。

 

ちょうどその日に、みきちゃんは家出をしたのでした。

小夜子はもしかしてみきちゃんは東福寺の山の秘密のかくれ家にいるんじゃないかと思って探しに行きますが、そこは荒れはてていてみきちゃんはいませんでした。

そうして、草のなかから木箱を見つけるのです。

フタを開けてみると・・・

 

 何十匹の白い蝶々はそのまま雨の降りはじめた空にのぼっていって、そのとちゅうで、そこがひろい空やということに気がついて、とつぜん、ひろがって散った。

 白ばっかりに見えた蝶のなかに、青い青いしじみ蝶が一匹、まるで、白いカーテンをあけたみたいにあらわれて、それは、まっすぐの空へ飛んでいった。

「みきちゃん、やっぱりうそつきや・・・オオムラサキなんかいいひんやん・・・・小さいしじみ蝶しかとれへんかったくせに・・・」

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 鼻がつーんとしてきた。

 はるか下のほうで、東福寺の駅についた京阪電車の緑色がゆがんで見えて、うちは、声をあげて泣いた。

 

 この「みきちゃん」は作者の越水利江子さんが、初めて書いた作品だそうです。

みきちゃんは、大すきな幼なじみをモデルにしています。

そのみきちゃんは大人になっても、ずうっといつまでも心の中に生きている大切な友達なのでしょう。

 

ですから書き上がった「みきちゃん」を、作者はどこに応募するでもなく、誰に読んでもらうでもなく、ただ自分で読んでは満足していたのでした。

そして、最初の読者でありファンとなったのが、越水利江子さんのお子さんだったのです。子供が気に入って、勝手に読んでいたというものでした。

作者として、とても幸せな門出ですね。

 

 この物語みきちゃんでは、やはりラストの小夜子がわあわあ声をあげて泣いたことが心に残りました。

小夜子の涙は、いったい何だったのだろうかと。

それは子供が、迷子になったときに流すような涙でしょうか。

それとも、何か欲しいものを買ってもらえなかった時に流す涙でしょうか。

 

子供だからそれはそうなのだけれど、でも、ちょっとだけ違うような気がするのです。

 

大事な友だちが、小夜子の手が届かないどこかへ行ってしまったという喪失の涙かもしれないし、

みきちゃんが背負っている運命の過酷さへ涙かもしれません・・・。

それとも、大きな何者かへの無意識の抗議の涙かもしれません。

 

あなたはどう思いますか?

 

それにしても、秘密のかくれ家で蝶が飛び立つ表現は、すごく幻想的でありながらリアリティもあって、これも美しい情景がくっきりと浮かんできます。

またみきちゃんのお父さんが生まれ故郷のソギポの星を話すところも、とても美しく、描写が美しいだけに、それがかえって現実の生活の過酷さを際立たせていて、小夜子の悲しみが胸に迫ってきますね。

ちなみにソギポは韓国最南端の西帰浦市のことです。

 

※ 風のラヴソングは、どれも短いお話になっていますが、どれも内容が深くて濃い作品なので、ぜひ深く味わっていただきたいので、何回かに分けて感想を書いてみたいと思います。

 

著者紹介:越水利江子さん

 高知県生まれ、京都育ち。

「風のラヴソング」(岩崎書店)で、日本児童文学者協会新人賞、

文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞。

「あした、出会った少年」(ポプラ社)で、日本児童文芸家協会賞受賞。

他に「花天新選組君よいつの日か会おう」(大日本図書)、

「竜神七子の冒険」(小峰書店)、「ぼく、イルカのラッキー」「月夜のねこいち」(共に毎日新聞社)、「忍剣花百姫伝」シリーズ、「こまじょちゃん」シリーズ(共にポプラ社)、「霊少女花」シリーズ(岩崎書店)、「百怪寺・夜店」シリーズ(あかね書房)など、ヤングアダルト、エンターティンメント、幼年絵本まで作品多数。

 


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みなさん、こんにちは💛

いつもご訪問をありがとうございます。

 

🎄クリスマスカードを買ってきました。

クリスチャンではないけれど、毎年何人かの友人に送って楽しんでいます。

コロナ前は、品数が多くある賑やかな街まで行って選んでいましたが、

今はいつもの近所の文具店で買っています。

でも、これも悪くないかなと思っています。。。

 

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