きこえてくるのはラヴソング
さあ 泣かないで
さあ 立ちあがって
耳をすまして
いつでも
だれかが くちずさんでいるはず
あなたへの ラヴソング
おもいだして
あの日の ラヴソング
ほら
明日のあなたへの ラヴソング
風のラヴソングは作者の越水利江子さんが、自身の子供時代をふり返って、
あのころ、読みおわったあと、力になる物語に出会えていたらと・・・
そんな気持ちから、
今もたたかいつづけているひとりぼっちの幼い戦士たちのために書きつづった少女・小夜子の一生を通して描かれるさまざまな「愛」の物語です。
越水利江子・作/中村悦子・絵/講談社・青い鳥文庫
バトンタッチ
クリスマスツリー作るのん。
ツリーのかざりは、木の実をあつめるのん。松ぼっくりとか、すずかけの木の実とかに、絵の具で色つけるのん。そうや、おじいちゃん、どっかに、赤い木の実なかった?
よもぎの枯れ草でツリーを作ると言っているのは、太気の姉の結子です。
おじいちゃんというのは、造成地の古い作業小屋に勝手に住んでいる白い髭のホームレスのことです。
古い作業小屋がある造成地は、その会社がつぶれたので野っ原になったまま放置されていてました。そしてここは、おじいちゃんが住む前は、太気とその友達の花郎が秘密基地にしていました。
2人はこの秘密基地を奪還しようと、いろいろと画策するのです。
ところが姉の結子は、このおじいちゃんとにこにこして話をしているのです。
「おじいちゃん、ずっと、ここにいる?」
お姉ちゃんがいっている。
「たぶんなあ、だれかに追いだされたりせえへんかったらな・・・」
そういって、じいちゃんが、ちらと、おれのほうを見たのでぎくっとした。
それからおじいちゃんは、誰かが「あそこに変な人がいます」と警察に言ったら、その日のうちに警察がやってきて追いだされると言うのでした。
太気は追いだす方法がわかってラッキーだったけれど、警察に言うというのは卑怯な気がしてできませんでした。
やがてクリスマスが近づいて来ると、結子はおじいちゃんのために、よもぎのクルスマス・ツリーを2日かがりで作ったのでした。しかし、
クリスマス・イヴの日、結子は交通事故であっけなく死んでしまいます。
太気の家には、クリスマスはやってきませんでした。
ベランダには、コスモスのたねをとったあとのプランターのそばに、お姉ちゃんのクリスマスツリーがあった。
枯れたよもぎは、土を入れた植木鉢に植えられて立っている。すずかけの木の実や、絵の具をぬった松ぼっくりがついている。
電気は消えているが、豆電球もまきつけられていた。お姉ちゃんが、じいちゃんに見せるいうて、ベランダに出したんやった。あの、交通事故にあう前の日に・・・
お母さん(小夜子)は、結子のツリーから目をそらしたまま、太気に「それを捨ててきて」と言うのでした。
「せっかくお姉ちゃんがつくったのに」とは言えず、太気は大型ごみの集積場所まで運んでいきます。途中で落としたねこじゃらしを拾って、ツリーにもどしたりしながら。
ふり向くと、
こわれたステレオや、冷蔵庫のそばで、お姉ちゃんのツリーが、ぽつんと立っていた。
のでした。
お正月が終わって、学校が始まると、友達の花郎が、「秘密基地を奪還したぞ!」と言ってきます。
どうやら、近所の誰かが警察に通報して、ホームレスのおじいさんは警察に連れていかれてどっかに追いはらわれたということでした。
その日、暗くなってから、花郎に呼び出されて、秘密基地である古い作業小屋に行ってみると・・・
「見てろ・・・」
懐中電灯が消えたやみのなかで、花郎の声がした。
ふいに、いくつもの、色とりどりの明かりがついた。明かりのなかに、やわらかな枯れ草色のクリスマスツリーが浮かびあがった。
赤や青の豆電球が、いっせいに点滅をはじめ、かざった松ぼっくりや、赤い木の実や、小さくちょうちょ結びにしたリボンがかがやいた。
それに、おれがすてたときよりたくさんの、金色のねこじゃらしがさしてあったので、ツリーはまるで黄金の雪をかぶったようにこんもりとしていた。
それは結子のクリスマスツリーでした。
太気が捨てたツリーを、おじいさんが拾ってきて、作業小屋に運んで、近くの電柱から電気を盗んで灯していたのです。
これを点けていたから、誰もいないはずの小屋に電気がついているって、近所の人にチクられたのでした。
花郎は、電気なんかつけへんかったら、見つからへんかったのに・・・と言いました。
太気は、お葬式の時、もう動かないお姉ちゃんを、みんなが世界中でいちばんかわいそうな子やという顔をしたのがなぜか嫌だったのです。
それがなぜ嫌だったのか、それが今わかった気がしたのでした。
お姉ちゃんは、かわいそうな子なんかやあらへん。おれはツリーを見ながら、はっきりそう思った。
おじいさんはたぶん、どこかで結子が死んでしまったことを知ったのでしょうね・・・。
黒い服を着た人がたくさん出入りをするのを見たのかもしれないし、ベランダに置かれて一度も点灯することのなかったクルスマスツリーをそっと見つめていたのかもしれません。
おじいさんは捨ててあった結子のクリスマスツリーを作業小屋に持ち帰って、草原のねこじゃらしをいっぱいつけたのですね。
そして、豆電球を灯しました。
豆電球を点灯したら、自分がどうなるかは、もちろんわかっていたでしょう。
それでもやっぱり、おじいさんは結子が残したクリスマスツリーを灯したかったのです。
クリスマスツリーを灯した時のおじいさんの幸せそうな顔が見えるようですね。
ホームレスのおじいさんは、結子からのプレゼントを確かに受け取ったのです。
弟の太気がいうように、結子はかわいそうな子ではありません。
結子は人を思いやる温かな心を持っていました。
よもぎの枯れ草をツリーにしようとか、キラキラした心を持っていました。
誰よりも豊かな心を持っていました。ですから、
短くても人生をじゅうぶん楽しく生き生きと、生ききったのではないのでしょうか。
※ 風のラヴソングは、どれも短いお話になっていますが、どれも内容が深くて濃い作品なので、ぜひ深く味わっていただきたいので、何回かに分けて感想を書いてみたいと思います。
著者紹介:越水利江子さん
高知県生まれ、京都育ち。
「風のラヴソング」(岩崎書店)で、日本児童文学者協会新人賞、
文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞。
「あした、出会った少年」(ポプラ社)で、日本児童文芸家協会賞受賞。
他に「花天新選組君よいつの日か会おう」(大日本図書)、
「竜神七子の冒険」(小峰書店)、「ぼく、イルカのラッキー」「月夜のねこいち」(共に毎日新聞社)、「忍剣花百姫伝」シリーズ、「こまじょちゃん」シリーズ(共にポプラ社)、「霊少女花」シリーズ(岩崎書店)、「百怪寺・夜店」シリーズ(あかね書房)など、ヤングアダルト、エンターティンメント、幼年絵本まで作品多数。
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