あなたには、どうしても捨てられないものはありませんか?
もし、どうしても捨てられないものがあるとしたら、
きっと不思議な招待状が届くかもしれませんよ。
その招待状を開くと、魔法の扉が開かれるのです。
そして、魔法使いがこう言うのです。
あなたの大切なものを、
時間魔法で十年お預かりしますよ。
お金はいただきません。
そのかわり、
あなたの1年分の時間をいただきます。
十年屋 /広嶋玲子・作/静山社
この物語には、どうしても捨てることができないものを持っている人が、
5人登場します。
1人目は、亡くなったお母さんに幼い時に作ってもらったスノポンという白いうさぎのぬいぐるみを持ったリリという15歳の少女です。
父親が再婚したため、新しいお母さんにそのスノポンを捨てるようにと迫られているのです。
新しいお母さんは、気づいたら実のお母さんが残していったものをどんどん捨ててしまっていました。
きっとこのスノポンも、リリのすきをついてこっそりと捨ててしまうだろう・・・と不安でいっぱいでした。
失いたくない。
りりは腕の中のぬいぐるみをぎゅっとだきしめた。
すると、窓枠のところに1枚のカードがはさまっていて、そのカードには「十年屋」と書かれてあるのでした。
2人目は、マカという女の子です。マカは可愛い女の子ですが、わがままでした。そのため、タンという恋人とけんかをしてしまいます。
そのタンが撮ってくれた自分の写真のアルバムだけは、なぜか捨てられなかったのです。
すると、床の上にセピア色のカードがあることに気がつくのでした。
3人目は、9歳のロロという少年でした。
ロロは、隣のアパートに住んでいる8歳のカウリという少女に恋をしていました。でも、カウリは病弱で家から出られません。
雪遊びができないとがっかりしているカウリに、ロロは雪だるまを作って持っていきます。雪だるまの顔だけは作らずに、カウリに最後の仕上げをさせてやろうと思ったからです。
ところが、カウリは病気が悪くなって入院してしまいました。
ロロは雪だるまをアパートの廊下に置いて、カウリの帰りを待っていました。ところが、お母さんが何げなくこう言ったのでした。
明日は春みたいに暖かくなるんですって。この雪も一気にとけるでしょうね。
ロロは雪だるまがとけてしまうのではと、心配でなりませんでした。
すると、猫の雪だるまの頭、耳と耳との間に、一枚のカードがのっていたのだ。
と、こんなふうに、魔法使いに招待されるのです。カードを開くと、
金茶色の光がつるばらのようにカードからのびてきて、はっと気がついたときには、レンガ造りのお店が立ち並ぶ横丁にいるのでした。そこは・・・
うっすらと霧がたちこめていて、何もかも月色の光にぼかされている。昼間でも夜でもない。まるでムーンストーンの中に封じられているような神秘的な雰囲気だ。
そこに忘れ草をかたどったステンドグラスの窓枠がはめ込まれたお店が、「十年屋」でした。
そこにいるのが、十年魔法の使い手の紳士と、オレンジの猫の執事です。この魔法使いの外見は、こんな感じです。
真っ白なシャツの上にびしっとしたセピア色のベストを着て、同じくセピア色のズボンをはいている。
懐中時計を持っているのか、金鎖がベストのポケットからのぞいており、履いている飴色の革靴もぴかぴかだ。
首元にはあざやかなスミレ色のスカーフを巻いていて、それがすてきなインパクトとなっている。
ふわふわとした長い髪は栗色、目は深みのある琥珀色。銀縁の細い眼鏡が渋い。
こんなふうに招待状のカードが届くところから、するすると魔法使いの世界に入っていくところが、とても魅惑的に描かれています。
猫の執事がいわくありげで、しかも話ができるのです。ケーキやお茶を出してくれるところもすごくキュートで、癒されます。
結局、リリも、マカも、ロロも、大切なものを十年預かってもらいます。
十年屋の魔法使いは、シャボン玉の魔法を使うのです。
十年の間、預かったものをそのままの状態でとどめておくことができる魔法なので、もちろん、雪だるまもそのままの状態で保存できるのです。
返却は十年経たなくても、いつでも可能です。
ただし、その代償として、寿命を1年、取られてしまうのでした。
その他にも、親友の指輪を盗んでしまった女の子のテアが、隠し場所に困って預けにきたり、祖父が預けていたからくり時計を受け取りにきたジンの話などがあります。
十年という歳月は、子供であれば大人に、なにか問題を抱えているのならばある答えが出るようなちょうどいい長さです。
それぞれの主人公は、それぞれに十年という歳月の中で、いろいろな答えを出してゆきます。
十年屋の魔法はその答えを導き出すほんのささやかなお手伝いをしているにすぎないのですが、読んでいるとほっこりとしてきます。
今、巷では断捨離は流行っています。
でも、そんなにあわてて捨てなくても良いのでは・・・と、この本を読んでいて思いました。
断捨離をすすめている人は、迷ったら捨てるといいますが、迷ったら十年屋ではないけれど、『迷いの箱』に入れて、しばらく置いてみるのもいいのではないかと思うようになりました。
ちなみにこの本『十年屋』のラストには、作り直しの魔法という話があります。
これはちょっと変わったおばあさんで、十年屋に引き取りに来なかったものを仕入れて、別のものに作り直して雑貨屋さんで売っているのです。
じつはこのお話の中に、預けたものを引き取りに来なかった人がいて、それをステキなものに作り直しているんです。
作り直しっていうのも、なんだかいいですね。
この本『十年屋』は、子供向けのファンタジーで書かれていますが、大人にもじゅうぶん楽しめる内容になっています。
お疲れのそこのあなた。
あなたも十年屋の魔法で、ちょっとだけ癒されてみませんか?
作者:廣嶋玲子について
神奈川県生まれ。
『水妖の森』でジュニア冒険小説大賞受賞。『あぐりこ』で児童文学ファンタジー大賞奨励賞を受賞。「あぐりこ」を改題した『狐霊の檻』他。
主な作品に『世界一周とんでもグルメ』「ふしぎ駄菓子屋銭天堂」シリーズ、
「もののけ屋」シリーズなど。
[児童版]十年屋 1 時の魔法はいかがでしょう [ 廣嶋 玲子 ]
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