松井五郎さんが運転する空いろのタクシーには、
ときどき、ちょっと変わったお客さんが乗ってきます。
ちょっと不思議なお客さんといったほうがいいでしょうか。
そんなときでも松井さんは、快くタクシーを走らせていきます。
するとタクシーは、ときどき不思議な場所へと走っていって・・・。
車のいろは空のいろ 春のお客さん/あまんきみこ作/ポプラ社
春のお客さん
林のそばのほそい道を、空いろのタクシーが走りだしました。
「なの花橋のちかくの、いずみようちえんまでおねがいします。」
客せきでそういったのは、わかいおかあさん。そのそばに、小さい男の子が五人、そっくりのまるい顔をならべています。
松井さんは若いおかあさんと五人の小さい男の子を乗せて、いずみようちえんまで行くと、お母さんはただ見学に来ただけなので松井さんに待っていてくださいと言って、子供たちを柵の外から幼稚園をながめています。
すると幼稚園の中から、子供たちがオルガンに合わせて歌っている楽しそうな歌が聴こえてきました。それを聞いていたはしっこの男の子のズボンから、ふわっとこげ茶のものが出てきました・・・。
きりの村
駅で乗せたお客さんは、タケイダムに沈んだ村を取材に来た新聞社の人でした。
松井さんがダムに向かってタクシーを走らせていくと、霧が出てきました。
きりは、みるみるこくなり、道の両がわの木ぎのみどりは、白のなかににじんでかくれていきます。
そして、なぜか舗装されているはずの道が、急に悪くなって車がガクガク揺れ出しました。
変だなぁと思って進んでゆくと、祭り太鼓の音が聞こえてきます。
お客さんがお祭りを見学して、また松井さんのタクシーに乗ってもと来た道に戻ってみれば・・・・。
やさしいてんき雨
大安吉日に松井さんは、花嫁さんを結婚式場があるブルースカイホテルまで送ることになりました。
真っ白いうちかけ姿の花嫁さんとそのお母さん、仲人の奥さんを乗せてタクシーを走らせてゆくと、明るい光の中を、雨がさあっと音を立てて降り出しました。
うちかけが濡れてしまうと慌てたお母さんに、松井さんが、「大丈夫ですよ、これは天気雨です。なあに『きつねのよめいり』でしょう。」
というと、お母さんはクスクス笑ってこういいます。
「・・・これは、天のカーテンですよ。しばらくらくにさせてもらいなさい。すこしでもつかれないようにしないと・・・」
松井さんが何気なくバックミラーを見ると・・・。
草木もねむるうしみつどき
真夜中の1時半を過ぎた頃、松井さんが小さな公園の横を通りかかると、ブランコに小さい人影がありました。
4つか、5つくらいの女の子が、ブランコがこげないといって泣いているのです。
そこで松井さんがブランコのこぎ方を教えて、家までとどけようとタクシーに乗せると、目的地の前ですっといなくなってしまいました。
すると、そこの家の戸が開いて、おばあさんが松井さんの方にかけてきて、「やっぱりですね。」というのでした。
じつは、このおばあさんは、・・・・。
雲の花
急なにわか雨の中を走っていると、畑の中の道を小さい女の子がびしょぬれで走っています。
可哀そうだなと思って、女の子をタクシーに乗せると、車はなぜかないはずの坂道をのぼっていきました。
「この道のつきあたりは、ずうっとかえで町だよ」
「ちがうよ。空町よ」
空いろのタクシーは、空にかかったガラスのような道を、まっすぐに進んでいました。
車が雲の上にとまると、家のなかから、目を糸のように泣きはらした男の子が出てきて・・・・。
虹の林の向こうまで
りんどう公園の奥まったところにある銀杏の木の下で、白い服を着た娘さんを二人乗せました。
二人はタクシーの中で、みんなに会えると楽しそうに話していました。やがて虹の林の入り口にタクシーが着くと、
「げんさんに、あたしたちのことは心配しないで」と伝えてほしいといって去っていきました。
松井さんはげんさんは知らないし、あたしたちが誰だか分からないし、料金ももらってないしと困って後を追いかけていくと、虹沼があってたくさんの白鳥がいました。
(おや、二わだ)
むこうから、十数羽の白鳥が、二わにむかっておよぎだしました。
そして、たちまちこちらからいった二わをとりかこみました。
松井さんがりんどう公園の飼育係の人に連絡すると・・・・。
まよなかのお客さん
月夜の晩に、松井さんがタクシーを走らせていると、おかしな格好をした人たちが立っていました。
ピエロと女の子とくまの格好です。行き先をたずねると、
「・・・道は、まえへまえへ、と、こう、きまってるんじゃないんですかなあ。」
なんてことをいいます。
松井さんがお客さんにつりこまれて、走り出すと、いつの間にかまわりに走っている車もおかしな格好の人ばかりが乗っていて・・・・。
結末は書きませんでしたが、どのお話もお客さんはちょっと不思議な人が出てきます。
あるいはふつうのタクシーでは行けないような不思議な場所なのです。
最初の「春のお客さん」のお母さんと五人の子供たちは、もちろん乗ってくるのは人間の親子ではありません。
でも車内のようすや子供たちを見つめる母親、そして松井さんの眼差しがとてもやさしいのです。
それで読んでいた人も、ほっとするのです。
「やさしいてんき雨」のお嫁さん達や「虹の林のむこうまで」の2人の少女もそうですね。
「きりの村」と「草木もねむるうしみつどき」は、松井さんのタクシーに乗って時間が過去の世界へ戻っていって、また帰ってきます。
ちょうどタクシーがタイムマシンの役目を果たしています。
松井さんのタクシーは雲の上にも、それから、おもちゃの世界にも、自由自在に走っていきます。
そして、不思議な体験をして、また現実の世界にすうっともどってくるのです。
なんて楽しくて、すてきなタクシーでしょうか。
こんなタクシーにあなたも乗ってみませんか?
乗り方はいたって簡単です。
疑わないで、想像力を働かせることです。
大人にとってはちょっと難しいかもしれませんが、柔らかい子供にとっては簡単にクリアできることでしょう。
作者 あまんきみこさん
旧満州生まれ。日本女子大学(通信)卒業。
『車のいろは空のいろ』(日本児童文学者協会新人賞、野間児童文芸推奨作品賞)
『ひつじぐもの向こうに』(産経児童出版文化賞)、『こがねの船』(旺文社児童文学賞)
『ちいちゃんのかげおくり』(小学館文学賞)など多数。
春のお客さん 新装版車のいろは空のいろ2 [ あまんきみこ ]
白いぼうし 新装版車のいろは空のいろ1 [ あまんきみこ ]
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