あなたは子供のころ、駄菓子屋さんへ行ったことはありますか?
駄菓子屋さんって、なんだか魅力がありますよね。
ふしぎ駄菓子屋『銭天童』へは、誰もが来られるわけではありません。
幸運を求める幸運な人だけだと、おかみの紅子さんが言います。
お店に並んでいる駄菓子も、「妖怪ガムガム」「招き猫もち」「闇のカクテルジュース」「あかん棒」・・・などなど、駄菓子のようだけど、もっと違った特別な力を秘めたお菓子なのです。
駄菓子を買った人はみんな、それぞれに不思議な体験をして願いが叶うのですが、願いが叶っても、それが吉となるか凶となるかは、あなた次第かもしれませんよ。
ふしぎ駄菓子屋●銭天堂/廣嶋玲子・作/jyaiya・絵/偕成社
「ここは銭天堂。幸運をもとめる幸運な人だけが、見つけられる店でござんす」
古銭の柄の入った赤紫色の着物を着て、相撲取りのようにどっしりとした体つきをした銭天堂のおかみの紅子さんが言います。
紅子さんの髪は真っ白だけど肌はつやつやで、紅い口紅をぬって、髪には色とりどりのかんざしを挿しているという年齢不詳のおかみさんです。
もうこれだけで不思議度マックスで、舞台設定は十分整った感じがします。
店頭には魅惑的な名称の駄菓子がずらっと並んでいて、ひとめ見た人の心をわしづかみにします。ここには悩んでいる子供や人がやってくると、紅子さんは悩みが解決するという駄菓子をすすめるのです。
当然、欲しくなります。
買えるかな?と思いますが、代金は5円とか10円とか、とても安いのです。
なぜなら紅子さんが注目しているのは、
「昭和42年の十円。まちがいなしで。お宝、ありがとうござんす。では、これは、お客さんのものでござんす」
というように、人間社会とはお金の価値観がちがっているからです。
さて、ではどんな人がどんな悩みを持っていて、どんな駄菓子を買って、その後どうなるのでしょうか。
それぞれの悩みはごくありふれた悩みですが、駄菓子はもの珍しく、いったいどんな効果があってどうなるんだろうと興味津々になります。
その期待通りにドキドキしたり、ワクワクしたりと、登場人物といっしょに楽しみながら追体験をすることができます。
あなたは読みながら、もし自分だったら・・・と思うかもしれませんね。
自分は絶対こんなことをしないと思うでしょうか。
それとも、登場人物と同じようなことをしてしまうでしょうか。
≪あらすじ≫
型ぬき人形グミ
真由美は水泳が苦手だ。水が怖いのだ。だけど明日から、体育の授業が水泳になる。それで真由美はゆうつだった。
学校帰りにのろのろと商店街を歩いていると、路地の奥に見たこともないような駄菓子屋を見つけるのだ。
「あたし、泳げるようになりたいの」と真由美が言うと、紅子さんは『型ぬき人形グミ』というお菓子を出すのだった。
「中に紙が入っているからよく読んでくださんせ」と紅子さんに注意をされたのにもかかわらず、真由美はよく読みもせずに、いそいそとお菓子を作ってすぐにぺろりと食べてしまった。
駄菓子の効果はすぐに現れて、クロールも平泳ぎもバタフライも、すいすいと泳げるようになっていた。ところが真由美の身体に異変が起こった。足にウロコが生えてきて、人魚化し始めたのだった。
説明書きには注意書きがあって、それには・・・・
猛獣ビスケット
信也は怖い話が大好きで、怖い話を妹にするのはもっと好きで、いつもこわがりの恵美を泣かせていた。
2人は商店街の横道の奥で小さな駄菓子屋さんを見つけて、恵美は何か小さなお菓子を買うのだった。そこは銭天堂で、恵美が呼ばれたのだった。
信也も「猛獣ビスケット」が欲しくなって買おうとしたら、信也は幸運のお客さんでないから売れないと断られてしまう。どうしても欲しくなった信也は、猛獣ビスケットを盗んでしまうのだった。
家に帰って箱を開けると、中にはトラにコブラ、サイ、コウモリ、ライオン、オオカミ、ゴリラ、サソリなど、どれもこれも邪悪で危険な感じの動物ばかりが入っていた。しかもその猛獣が動き出し、どんどん大きくなって信也を襲ってくるのだった。
その時、恵美が買った駄菓子が・・・
ホーンテッドアイス
21歳の美紀は仕事を見つけて働き始めたばかり。暑くなってもわずかなお給料なのでクーラーをつけずに我慢していた。
猛暑の夜にアイスを買おうと出かけた時、涼しい冷気に誘われるようにして歩いていくと銭天堂の駄菓子屋にたどり着いた。
銭天堂で買った「ホーンテッドアイス」は、手にしただけでしびれるような冷たさが全身にはしって、ぞくぞくしてくるのだった。
そして食べると、美紀の部屋はお化け屋敷になって・・・・
釣り鯛焼き
日曜にお父さんと釣りに行くはずだったのに、お父さんは仕事を入れてしまった。そこで慶司は大好きな鯛焼きが食べたくなって商店街に行ったのだが、店は閉まっていた。
あきらめて帰ろうとしたら、鯛焼きのあまい香りがして、においを辿って行くと銭天堂が見えたのだった。
鯛焼きが食べたいと慶司が言うと、紅子さんは『釣り鯛焼き』という駄菓子を渡して、「大物がつれるとようござんすね」と言う。
『あの釣り鯛焼き』にはお菓子ではなく、折りたたみの簡易釣り道具が入っていた。説明書きの通りにバケツに水を汲んで釣り針をたらすと、針にかかってきたのは鯛焼きだった。
なんとバケツのなかは海につながっていて、そこにはたくさんの鯛焼きが泳いでいるのだった。
慶司は毎日鯛焼きを釣って、いろいろな味の鯛焼きを食べていた。ところが、ある日、姉の冬子がうっかり釣竿を踏んで壊してしまう。
仕方なく違う釣竿で釣ろうとすると、大変なことが・・・・
カリスマボンボン
典行は美容師だが、うだつがあがらなかった。なぜなら客の要望も聞かず、先輩の忠告や教えも無視し、すぐにすねるし後輩には威張り散らすからだった。
店長に怒られて、悔しくて店を飛び出してウロウロしている時、銭天堂があった。
「有名になりたいんだ。だれにももんくをつけられないような、そんな大物になりたいんだよ」と典行が言うと、
おかみは銀紙につつまれた『カリスマボンボン』というクルミくらいの大きさのお菓子を出すのだった。
それからというもの典行のもとに、どっとお客が押し寄せるようになった。
どんなカットをしようと、ひどい色合いに染められても、お客たちはすばらしいと典行を褒めたたえるようになった。
典行は大繁盛して、名声もお金も何もかも手に入って最高の気分になったのだが、今度は逆に、カリスマボンボンの効果が切れたらと、怯えるようになっていった。
もう一つ駄菓子が欲しかったが、銭天堂はいくら探して見つからなった。
そんなある日、銭天堂の紅子が店にやってきて、美鈴という若いスタッフを指名して・・・
クッキングツリー
翔平と弟の北斗は、いわゆるネグレクトの子供だ。2人の母親は気まぐれで怒りっぽく、時には何日も2人を置いてアパートを留守にしてしまう。
2人がお腹を空かせていると、アパートの部屋に紅子さんがやってくる。
同じアパートのすみれおねえさんが、銭天堂で2人のことを紅子さんに頼んだといい、すでにお代はもらっているのだとか。
紅子さんは『クッキングツリー』の素という駄菓子で、お鍋に木をつくった。
変わった木だった。全体的にずんぐりむっくりしていて、木肌はつるりとしていて、真っ黒だ。いちばんふしぎなのは、木の葉が赤やオレンジや金色で、ちらちらとかがやくところだ。まるで、木に火がついているように見える。
枝がはえそろうと、今度は木の実がみのりだした。クルミくらいの桃色の実が、小さな木に鈴なりとなる。
この木の実は、ハンバーグやグラタンなど、色々な料理の味がするのだった。木の実つつぎつぎと実るので、お腹いっぱいになった。
ところが帰ってきた母親に、クッキングツリーを取り上げられてしまうのだ。
2人は泣き寝入りしてしまいますが、翌朝になると母親は・・・・
駄菓子の名前は、ちょっとダジャレが多いでしょうか。
その通りで、『銭天堂』はエンタメの物語のようですね。でも、この物語にはそれだけではない何かがあるようです。
それは昔あって、今は失われてしまった駄菓子屋さんと、同じように科学が発達して過去のものとなった魔法の世界と、その失われつつある2つのものを、廣嶋玲子さんの強力な想像力で、ばーんとをつなぎ合わせてファンタジーとして蘇らせてくれました。
誰もが訪れてみたい日常の中のありふれた場面が、廣嶋魔法で非日常な世界をつくり出すことに成功しています。
もしも、こんなことがあったらいいなと思えるような世界を理屈抜きで出現させて、読者を楽しませてくれますが、それはたぶん、この物語を書くことを作者自身が楽しんでいるからに違いありません。
ダジャレも含めて、この話は素直に読んで、素直に楽しむのに良いお話だと思います。
作者・廣嶋玲子さん
神奈川県生まれ。
『水妖の森』(岩崎書店)で、ジュニア冒険小説大賞受賞。
作品に、『送り人の娘』『火鍛冶の娘』(角川書店)、『盗角妖伝』『ゆうれい猫ふくこさん』(岩崎書店)、『魂を追う者たち』(講談社)、「魔女犬ポンポン』シリーズ(角川書店)、「はんぴらり」シリーズ(童心社)、「鬼が辻にあやかしあり」シリーズ(ポプラ社)などがある。
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