「示談が成立した後、豊井社長がいってたよ」岩本がいった。
「欠陥のある機械は、いくら修理してもまた故障する。あいつも同じで、所詮は欠陥品。いつかもっと悪いことをして、刑務所に入るだろうって」
玲斗は唇を噛んだ。どういう言葉を返せばいいのかわからなかった。
どうか、と弁護士は続けた。
「これからの生き方で、その予言が的外れだったことを証明するように」
不当な理由で職場を解雇され、腹いせに罪を犯して逮捕された玲斗。
お金も頼る人もいない玲斗は刑務所に行くことを覚悟したのだが、そこへ初老の弁護士が現れ、謎の依頼人のいうことに従うのなら釈放になるようにするという提案があります。
もし釈放されて命じられたことが犯罪がらみだったら、割があわない。迷った挙句、玲斗はコイントスで決めるのでした。
クスノキの番人/東野圭吾・作/実業之日本社
玲斗はコイントスで依頼すると決めます。
すぐに釈放され警察署を出たら、そこには高級車に乗った岩本が待っていて、一流ホテルへ連れて行きます。ホテルの車寄せで別れ際に弁護士が玲斗にいったのが、冒頭のセリフになります。そして、
「どんなふうに生きればいいのかな」と、玲斗は問いかけます。・・・
「それに対する答えが、その部屋で君を待っているんじゃないのかな」岩本は玲斗の手元にあるメモを指さした。
「だけど一つだけいっておく。重大なことを決める時は、この次からは自分の頭で考え、しっかりとした意思の元に答えを出すことだ。コイントスなんてものには頼らずに」眼鏡の向こうの岩本の目には冷徹な光が宿っていた。
依頼人の待つ部屋にいくと、叔母だという女性が待っていて玲斗に命令します。
玲斗との複雑な人間関係を説明したあと、叔母の千舟がこう命じます。
「あなたにしてもらいたいこと――それはクスノキの番人です」
そういういきさつで、訳もわからず始めたクスノキの番人という仕事なんですが、これがとてもスピリチュアルな仕事です。
月郷神社の管理とここに太古から鎮座する直径が五メートル、高さも十メートルはあるとクスノキの大木の番人という仕事は、昼間よりもむしろ新月と満月の夜に行われる「祈念者」のお世話でした。
深夜に祈念者はクスノキのうろに入って、ひとり祈念をするのでした。
この祈念者は千舟が決めていて、玲斗は訪れた祈念者に「念が伝わりますように」といい特製の「ろうそく」を渡します。
祈念者がいるときにはクスノキには誰も近づけないようにし、終わったら後片づけをします。
やることはこれだけでえう。巷にはクスノキで祈念すると願いが叶うらしいとか、さまざまな噂がありますが、真実は千舟に教えてもらっていません。
ある日、満月の祈念をするために佐治という男性がやってきます。その後をこっそりつけてきた優美という若い女性とかかわりあいになって、一緒にクスノキの真相を探り始めていきます。
さまざまな理由でクスノキの祈念に訪れる人々がいます。
音源もなく失われた幻の曲は再現できるのか。
死んでしまった人の想いを知ることは出来るのか。
この話は登場してくる人間のミステリの解明と同時に、それがクスノキの真の姿の解明にもつながっていき、人間の不思議な絆につながっていくという二重構造の面白さになっています。
東野圭吾さんは人間の絆についての深い想い、特に血縁関係のつながりに重きを置いた作品が多いようですが、このクスノキの番人も同じように感じました。
主人公の玲斗は逆境で育ってきた青年ですが、特に本の出だしの部分では「夢」や「将来の展望」もなくその場しのぎで生きているというように、その性格や考えが際立って描かれています。
叔母の千舟はその反対で、家柄のよい家で育ったエリートで、数多くの旅館やホテルを経営するヤナッツ・コーポレーションの代表取締役までしていたという人物です。
この真逆の二人が出会い、そこから次第にお互いに影響を受けあって、玲斗がミステリを解明しながら少しずつ変化成長していくところがとても良く描かれています。
やがて玲斗はクスノキの本当の力を知ります。それと同時に、千舟の悩みや苦しみも理解し・・・
どなたかが東野圭吾さんを評して、『理系』『関西人』 この二つの言葉で理解できると書いていたように思います。また本人も、それを肯定するようなことを書いていたように思います。
しかし、かつて「ナミヤ雑貨店の奇跡」という映画をTVで観たときに、そのときには東野圭吾さんの原作とは思いませんでしたが、とてもファンタジーだなと思ったものでした。この作品も同じような読後感がありました。
それにスピリチュアルが加わって、さわやかなスピリチュアル・ファンタジーという感じでしょうか。
ふと、こんなクスノキがあったなたら、私は何を・・・とつい思ってしまいました。
みなさん、こんにちは💛
いつもご訪問をありがとうございます。
やっと「クスノキの番人」の感想を書きました。
新刊の「クスノキの女神」という続編が出ましたので、早速読みました。
これも良かったです。おススメします。
これも後日、感想を書きたいと思います。
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