床井くんは、六年生のクラスがえで、最初にとなりの席になった男の子だった。
・・・
「さんけた?」
「みけたです。三ケ田暦(みけたこよみ」
「みけたか! じゃあミケだなっ」
なにそれ、猫みたい。でも、男の子からニックネームで呼ばれたのははじめてだった。じわじわうれしくなってきて、暦はどういう顔をしたらいいのかわからない。
ゆかいな床井くん/戸森しるこ 作/講談社
ふつう、どの学校のどのクラスにもいるごくふつうのちょっと面白い子と、背が高く親が双子というくらいで同じようにふつうの女の子と、ふつうのクラスメートと、だれもが経験してきたような小学生のごくふつうの日常が、温かい視線で描かれています。
児童文学によくある感動ものとか、何かを教えてやろうというような上から目線な感じがないところがいいですね。
エピソードが面白いですね。
暦は床井くんと『白滝先生のネクタイの模様当てゲーム』を始めます。
月曜日、アリ。火曜日、ブルドック。水曜日、ハシビロコウ。木曜日、マンボウ。
担任の白滝先生は生きものが好きで、いつもそういう個性的な柄のネクタイをつけてくるんですね。
「ハシビロコウには、ビビったな。どこで見つけたんだろう」
とか、
「今日はシンプルに、アルマジロだな」
ってやってると、突然、前の席の鎌田くんが会話に入ってきて、
「ぼくはイルカかクジラだと思う」なんていう。なんでかっていうと、
「毎週、木曜日と金曜日は海洋系なんだよ。先生はきっと、週末になると海が恋しくなるんだ。ああ見えて、サーファーだから」
「今週は月曜日だから、生きものが徐々に巨大化している。先生はきっと、週末が近づくと気が大きくなるんだ」
小学生ながら、大人顔負けの分析力をしてくる。
しかも、鎌田くんもなにげにゲームに参加しているのがわかって、暦はちょっとくれしくなったのだが、読んでいる方もなんだか面白そうでうれしい。
教育実習生の若い女の先生に、遠山くんという男子がいきなり「すげーっ、巨乳じゃん」といって、先生が泣いてしまった「おっぱいメロン事件」。
スターバックスの前でくっついてきたバッタに「スタバッタ」という名前をつけてクラスで飼うことになった話。
学校のプール近くの自動販売機が、時どき、オロナミンCを2個出してくる気まぐれ自販機の話。
学校を休んでいることが多く、学校では誰とも一言も言葉をしゃべらない帆乃佳のために、先生がアンサーポールという積み木を作ってくれた話。
など。
エピソードはどれもささいな出来事ばかりなのですが、暦がそれを女子ならではの目線で書いています。この年頃の女子はどちらかというと、男子よりも大人な考えをしていますね。たとえば、
五年生のときは、「デカ女」とか「巨人族」とか、幼稚なことを言っていじめてくる男子がいて、すごくうっとおしかったけれど、六年生になったとたんに、そういうことは言われなくなった。
そういう男子を幼稚だといい、うっとおしいと感じているところなんか、自分やまわりの男子を客観視できていて、けっこう暦って大人なんですね。しかも、それは床井くんのおかげだという。
暦はまわりに気遣いができる子なんですね。どちらかというと気を使い過ぎて、自分を殺してしまうタイプの子です。
自分は子供の頃、こんなにまわりに気を遣わなかったなと思うけれど、今の子はそれくらい大変な人間関係の中にいるのかなとも思ったりしました。それとも自分がノー天気だったのか・・・。
クラスで全くしゃべらない子帆乃佳さんのために先生が作ったというアンサーポールですが、これは直方体の黄色い積み木の両端を赤と青に塗ったもので、青が解き終わりました、黄色が考え中、赤が助けてくださいを意味するのだとか。名案ですね。
じつはこれ、夏休み中に先生と帆乃佳さんがいっしょに作ったのだそうだ。そして、夏休み明けに帆乃佳さんは、教室に入ってきたとき、「おはよー」と、小さな声でいったのです。
そうしてしゃべるようになった帆乃佳さん。アンサーポールは使わなくてもいいようになったので、暦は白滝先生に、
「これ、せっかく作ってくれたけど、無駄になったんじゃない?」
っていったら、先生は「そんなことないですよ」とにんまり笑ったという。
ほのぼのとしていい話ですね。
これには後日談があって、中学3年になってから機会があって「どうしてクラスでしゃべらなかったの?」って聞いてみたそうだ。すると帆乃佳さんは、
「それ、聞かれると困るんだよね。だって自分でもわからないから」
って答えています。
なんだかいいですよね、この感じ。
平成の作家っていう感じがしますね。この本が出たのが2017年なので、ぎりぎり平成ですね。
最後にちょっとひと言なんですが、
これはちょっとぼかしていますが、ファースト・ラブっぽくもありますね。
たとえば、こんなところなんか。
「おっ、ミケが笑った。今日はきっといいことがあるな」
床井くんが笑いかけてくれたので、
今日はすでにいいことがあったなと、暦は思った。
戸森しるこさん
1984年、埼玉県生まれ。武蔵大学経済学部経営学科卒。東京都在住。
『ぼくたちのリアル』で第56回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。
同作は児童文芸新人賞、産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。
2017年度青少年読書感想文全国コンクール小学校高学年の課題図書に選定。
『十一月のマーブル』『理科準備室のヴィーナス』『おしごとのおはなし スクールカウンセラー レインボールームのエマ』『ぼくの、ミギ』(以上、講談社)
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