ロンドンの町の、高い高い家のてっぺんのへやに、年よりのコクルおばあさんが住んでいました。そのため階段を、84段も登ったり降りたりしなければなりません。
だけど、そのことをつらいとは思っていませんでした。
おばあさんの部屋の窓から、ロンドンの街がながめられたし、天井のはね窓から屋根上に出られたのです。
それはすばらしいながめでした。けれども、コクルおばあさんは、八十四だんのかいだんを上がらなければならないために、すでに、ひざのうしろがわがいたくなっていました。
だから、もし、ピーターがいなければ、おばあさんは、やねに上がれることなんか、どうでもよかったにちがいありません。
ピーターというのは、コクルおばあさんが飼っているねこでした。
ところがある日、ピーターが家出をしてしまいます……
コクルおばあさんとねこ/フィリッパ・ピアス作 前田美恵子訳/㈱徳間書店
ピーターが家出をした理由は、
悪いお天気がつづいて魚の値段が上がり、おばあさんがピーターに魚を買ってやれなくなったという理由からでした。
おばあさんの仕事っていうのは、大きいロンドンの街角でふうせんを売ることでした。
おばあさんはふうせんを売って、自分とピーターのふたりがどうにか暮らしていたのです。
ピーターが心配のあまりやせてしまったおばあさんは、強い風が吹く日に、たくさんのふうせんにひっぱられて、空に舞い上がってしまいます。
ふうせんとコクルおばあさんは、今では、いちばん高い家よりも、もっと高く上がっていきました。おばあさんが、ねこのピーターといっしょに上がったことのあるやねの上より、もっと高いところまで上がっていたのです。
おばあさんは、下を見ました。ロンドンの町の、すばらしいながめがひらけていました。けれども、あっというまに、そのながめは、見えなくなってしまいました。おばあさんは、ゆっくりゆっくり、上へのぼりつづけました。
ここからはおばあさんの、めくるめくような空の冒険が始まっていきます。
どんよりと曇ったロンドンを雲をつきぬけて、青空ともくもくとした白い雲の上を飛んでいき、はるか下に小さく見えるロンドンを眺めながら、テムズ川にそって飛んでゆくと、やがておばあさんは・・・
前半分はおばあさんと飼い猫ピーターとの生活が温かいまなざしで、リアリティを持ってていねいに書いてあります。読んでいると思わず、おばあさんの気持ちになって、ピーターはどこへ行ってしまったんだろうと思います。
ところが後半は、おばあさんがふうせん🎈を持って空の旅をするという、とてもファンタスティックなお話になっています。
子供はこういうお話が大好きです。
「空飛ぶ家のカールじいさん」は、おじいさんと家がたくさんのふうせんで空へ舞い上がっていくお話です。メリー・ポピンズは傘です。
日本でも「おばあさんの飛行機」(佐藤さとる)は、おばあさんが編んだ蝶が舞いあがって空の旅をする話です。
大人は理屈で考えて首をひねってしまうような話でも、柔らかい心で物語を読む子供はすっと読み続けていくことができます。
つつましく誠実に暮らしてきたおばあさんと猫に、困ったことが起こりました。ところが奇想天外な奇跡なような出来事が起こって、最後はハッピー・エンド。まるでサムシング・グレートがおばあさんをちょいとつまみあげて、べつの素敵な環境に置いてくれたような出来事です。
人生にはこんなこともあるんだなと、幼い心のどこかで楽しい記憶として残ったとしたら、作者としては本望でしょう。実際、こういうような奇跡は、あちこちで起こっているようなきがしてなりません。
作者・フィリッパ・ピアスさん
1920年-2006年。英国の児童文学作家。
『トムは真夜中の庭で』(岩波書店)でカーネギー賞を受賞、「時」を扱った児童文学の古典と評された。物語の名手であり、「20世紀の児童文学作家の中で最も優れ、最も愛された1人」と評された。
『消えた犬と野原の魔法』(徳間書店)、『川べのちいさなモグラ博士』(岩波書店ん)、『ハヤ号セイ川をいく』(講談社)など。
コクルおばあさんとねこ (児童書) [ フィリパ・ピアス ]
【中古】 コクルおばあさんとねこ/フィリパ・ピアス(著者),前田三恵子(訳者),アントニー・メイトランド
トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 041) [ ピアス,A.P.(アン・フィリパ) ]
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