「あのね、演劇人は、くよくよしないものなのよ。
顔をあげて、目を前にむけるの。わたしの好きな言葉はね、”とびらがひとつ閉まるたびに、新しいとびらがひらく”というの。
あなたにとって、そうなると思っているわ、シーラ、心からね」
アップステージ/ダイアナ・ハーモン・アシャー・作/評論社
シャイなシーラは目立つことが苦手で、すぐに顔が真っ赤になってしまいます。でも本当は歌うのが大好きで、舞台に立つことをあこがれてもいます。
そんなシーラがアメリカの中学校での ”ザ・ミュージック・マン” のミュージカルで、バーバーショップ・カルテット(四人組のおじさんの合唱団)の1人に選ばれます。
しり込みをしつつ、家族の期待や先生や親友のキャシーの励ましもあって、断り切れずに引き受けるのですが、モニカが演じるマリアンの代役まで任されてしまいます。
ちなみにこの本の ”アップステージ”というのは、”脇役が主役がかすむようなことをする”ことをいうのだそうです。
主役を演じるのは、
★ハロルド・ヒル教授(旅のセールスマン)……ポール
★マリアン(リバーシティの図書館長)……モニカ
ポールは学校ではシーラと同じように目立たない子なのですが、舞台の上では別人のように生き生きとして演技をします。
モニカはボイス・トレーニングやダンス・レッスンに通い、コマーシャルのオーディションも受けてデビューしようとしている女の子で、かなり高慢ちきな子です。
”ザ・ミュージック・マン”はニューヨークのブロードウェイで1957年に初演され、トミー賞を最優秀作品賞を含む多くの部門で受賞して、ロングランを果たした作品で、その後も再演され映画化もされました。
この本はアメリカの中学校で、生徒によるひとつのミュージカル公演が実現して幕が閉じ、打ち上げをするまでの、さまざまな出来事を通してのシーラの心情と成長を、シーラの目線でひとつひとつすくいあげて丁寧に書いています。
作者のダイアナさんも、小学校のミュージカルの舞台に立ったことがあったそうです。そのせいか作品にはリアリティが感じられ、シーラと一緒に泣いたり笑ったりとすっと感情移入ができるのだろうと思いました。
生活面では日本とアメリカとの学校の違いに気付いたり、逆にいじめがあったり、恋があったり、嫉妬したりと、人間的にはどこも同じだなと感じたりもしました。
それでも深刻にならずに楽しく読めるのは、アメリカン・ジョークとユーモアがいたるところにちりばめられているからでしょうか。
読み終わった時には、きっとあなたもこの舞台の登場人物の誰かになって、役を演じている気分になっているかもしれませんね。
アップステージ シャイなわたしが舞台に立つまで [ ダイアナ・ハーモン・アシャー ]
ダイアナ・ハーモン・アシャー さん
アメリカの作家。イェール大学で英語と英文学を学ぶ。卒業後は出版社と映画会社に勤務したのち、退職して3人の息子を育てる。現在はニューヨーク州在住。
執筆のほか、子供たちの読書支援や創作教室の活動をしている。デビュー作は『サイド・トラックー走るのニガテなぼくのランニング日記』(評論社)
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