ノネコは、山のねぐらに、ひとりぼっちで暮らしていた。
山には、猫のお客はめったにやってこない。それでも、ノネコは毎日、テーブルにイスの数だけお皿をならべた。
小学館
まんげつの夜、どかんねこのあしがいっぽん/朽木祥 作・片岡まみこ 絵
シチューをとろりと煮込み、小エビをからりと揚げて、フィッシュケーキをきつね色に焼きあげた。ミルクとチーズのプディングも、ゆるくあわだてたクリームをたっぷりとかけた。
だけど、だれもやって来なかった。
くる日もくる日も一人ぼっちだったので、いつも一人でごちそうをたいらげていたので、いつの間にか狸みたいに大きくなってしまっていた。
春のある日、ノネコは友だちをさがしに山を下りていくと、でっかい犬に出会った。
ノネコは野原のまんなかに転がっていた土管にもぐりこんだのだが、いざ出ようとしたら、体が土管にはまってぬけなくなってしまった。ノネコは土管から、片手(足?)だけを出して身動きがとれない。
そこへキジ猫や白猫やまん丸な顔の茶虎など、いろいろな猫がやってくるけれど、誰にもどうすることもできない。
ちょうど満月の夜で、この日は土管のまわりで猫の祭りがあった。猫たちは土管のノネコの片方だけ出ている足をとびこえながら、
「どかんねこのあしがいっぽん🎵」とうたった。
すると……
一人ぼっちのノネコは、思いきって山をおりていったのに、災難にあってしまい、出会った猫たちは、みんな人ごとのようにノネコを助けてくれようとしません。
こんなことだったら、山を下りてくるんじゃなかったって、ノネコは後悔します。
だけど、土管のまわりで陽気に歌を歌ってとびはねていると、ノネコの状況もだんだん変わってきます。
「まんげつのよーる!」
ぴょん、ぴょん!
「どかんねこのあしがいっぽん!」
ぴょーん!
「ほろほろ、どかんねこのあしが、ほろほろ、いっぽーん! ほろほろ!」
ぴょ、ぴょん、ぴょん!
きっと子供だったら、みんなが土管ねこのまわりを歌いながらとびはねているところで、笑いだすかもしれませんね。
まあ、結果オーライっていうところでしょうか。ピンチであんまり深刻にならないところが、いかにも猫らしいって感じでいいですね。
朽木祥さん
広島市生まれ。被爆二世。主な作品に、『かはたれ』(福音館書店、児童文芸新人賞・日本文学者協会新人賞他)、『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社、日本児童文芸家協会賞)、『風の靴』(産経児童出版文化賞大賞)、『光のうつしえ』(講談社、福田清人賞・小学館児童出版文化賞)、『花びら姫とねこ魔女
(小学館)など。
いつもありがとうございます。