樹里(ジュリ)の家は祖父が建てた家だったけれど、ガタがきたので両親が改築をした。そのとき、ちょっと贅沢をして、おしゃれで工夫をこらした〈サンルーム〉をこしらえた。
そこでパパは日光浴をしながら寝椅子で好きな本を読み、ママは日光浴しながら、好きな植物を育てるつもりだった。ところが……
親戚の徳田のジジイに、孫の勉が面倒見きれなくなったイグアナを、「誕生日のお祝いに恐竜をあげる」とだまされて、強引に押しつけられたのだった。
断りたいけど、徳田のジジイはパパの学校の理事長なため断れず、サンルームはめちゃくちゃになり、平和だった家庭にも大嵐が吹き荒れることに・・・
(ノ・ω・)ノオオオォォォ-
イグアナくんのおじゃまな毎日/佐藤多佳子 作/偕成社
約1メートルのグリーン・イグアナ。生後一年半。
トカゲ。ヘビやカメと同じハ虫類。草食で、攻撃性がなくて、おとなしい。鳴かない。におわない。人によくなれる。人気があるペットだが、飼うのが大変。なぜなら、
● 25度以上、四十度以下という特別な気温でないと死んじまう。
● いろんな野菜をつかったぜいたくなサラダを食べないと死んじまう。
● ナマの日光にあてないと死んじまう。
● 病気やケガをしても、たいていの獣医さんは治し方を知らないので死んじまう。
もらったとはいえ、徳田のジジイが見に来るから大事にしなければならない。
ところがママはハ虫類が大の苦手て。パパは仕事が忙しい。そのため小学生の樹里(ジュリ)が世話をしなければならないのです。
もとの飼い主の勉がつけた「ティラ」と名前を、樹里は「ヤダモン」と変えます。イグアナなんかいらないし、世話するのも嫌だから。
樹里は毎朝6時に起きて、ヤダモンのサラダを作って、ウンチを掃除する毎日なため、手は傷だらけ。学校では居眠りをしてしまうことに。
この一か月、ウチの家族は、およそ九十回はケンカをした。一日三回として、三十日で九十回。とにかく、みんな、きげんが悪い。ストレスっていうの? イライラがどんどんたまってって、ときどきドカンとあふれちゃう。
動物の―うんと手のかかる動物の―世話をしたことある人ならわかると思うけど、三日やるのと、三十日やるのと、まるっきるちがうっていうこと。もう、あたし、目覚まし時計が六時に鳴ると床にぶんなげちゃうし、コマツナなんか丸ごとエサ皿におしこんでやりたくなるし、緑色のウンチを見ると……!
パパも切れて、
「おまえを出刃包丁で三枚におろして、箱につめて赤いリボンをかけて、徳田のジジイのクソジジイに送りつけてやるぞ!」
と言いだす始末。
そんな時に一大事件が起こります。
留守中にヤダモンがサンルームを抜け出したらしいのです。
ここはホラーです。樹里が玄関を入ってくると、
玄関の傘たてからはじまって、リビングの植木(これはヤダモンのせいでサンルームから避難したもの)、サイドボードの置き物、テーブルワゴンの置き物・・・と続いていきます。
ありとあらゆるものが、床に落ち、たおれ、われ、こぼれ、ぐちゃぐちゃになっていた。
ママが命のつぎに大事にしていたマイセンの陶器の人形のかけらと、パパのCDの山と……(と樹里の目線で)リビングのカーテンがひきさかれて、ボロ布のようにぶらさがっている……小さな本棚やダンボールに入りきらずに積み上げてあるパパの本(これもサンルームから避難してきた本です)ママの化粧台の上のびん・・・
ママがお出かけに何を着ていくかまよって、あれこれためしたあと、タンスのしまわずにベッドの上のにでも置いていったらしい。あのビリビリにやぶけているモノトーンのワンピはディオールだっけ? えりがちぎれている砂色のスーツはジバンシーとかいってたっけ?
・・・と続いていく辺りは、間違いなくホラー映画のようでした。いい演出です。
真夜中です。親には内緒にして、樹里はヤダモンを連れて夜中に家を抜け出します。
もちろんヤダモンを捨てにいくためです。
大人でも真夜中の町は怖いものですが、小学生です。びくびくしながら、とうとう目的地に着きます・・・ジッパーを開けて、ヤダモンをそっととりだして、コンクリートの歩道に眠っているヤダモンを置きます。
そのヤダモンをじっと見て、樹里はこんなふうに思います。
四月の末の真やの町は寒かった。二十五度以下なのはあたりまえで、十度あるかどうかだってわからない。トレーナー1枚のあたしがブルブルふるえるほど寒いんだから、ヤダモンはもっともっと寒い。どのくらい寒いとイグアナは死んじまうのかなあ。
歩道の上で、置き物のように眠っているイグアナは、すごくマヌケにみえた。すごくたよりなくみえた。
結局、樹里はヤダモンを捨てることが出来ずに、また連れ帰ります。するといなくなった樹里を心配して、パパとママが家のまわりをウロウロしていて・・・
ここから物語は、大きく変わっていきます。
どのように変わるかというと、それは読んでください。この後半はとても面白いので是非読んで楽しんでください。そして、余韻にひたってください。
この本を読むと、イグアナがすごく可愛く感じてくると思います。
イグアナを飼ってみたいなと思ったりもするかもしれません。でもやはり、覚悟がいります。イグアナのみならず、どんな小さなペットでも、人間がペットを飼うということは、つまり覚悟がいるのです。
この物語でも、いやいや飼っていたときには、何もかもが被害者意識ばかりで不幸の連続でした。ところが後半になって、家族が「ヤダモンを家族として認めて、これからずうっと一緒に生きていくんだ」と覚悟を決めたところから、物語は大きな転換点を迎えます。
そうして徳田のジジイともとの飼い主の勉を、ぎゃふんと言わせることができるのでした。ここは痛快で、読んでいると胸がすっとしました。
あと気になっていた男の子とも、ヤダモンがもとでガールフレンドになれたし、いたるところに小技が効いていて楽しめました。
作者:佐藤多佳子さん
1962年、東京都に生まれる。青山学院大学文学部卒業。
「サマータイム」で月刊MOE童話大賞を受賞。『九月の雨』『ハンサム・ガール』『スローモーション』『しゃべれども・しゃべれども』などがある。
イグアナくんのおじゃまな毎日 (偕成社おたのしみクラブ) [ 佐藤多佳子 ]
イグアナくんのおじゃまな毎日 (軽装版偕成社ポッシュ) [ 佐藤多佳子 ]
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