正月の親戚の集まりで英国留学の思い出を問われるままに語っていたら、80歳を超えた祖母が、
「一度でいいからロンドンに行ってみたい。お姫様のような旅をしたい」
と告げたことから、一族総出で支援する五泊七日の豪華イギリス旅行が決まった!
とんでもなくエレガントでエクセレントな祖母とビンボーな孫娘のイギリス珍道中です(笑)が、ドキリとしたりホロリとしたり・・・。
祖母姫、ロンドンへ行く!/椹野道流 著/小学館
ナショナル・ギャラリー鑑賞では、展示室の片隅に座っている係員の女性に言及。
悪気はなくても、作品に顔を近づけすぎたり、手を伸ばして無邪気にフレームに触ろうとしたりする人も中にはいます。
そういう人たちの心を傷つけたり嫌な思いをさせたりしないよう、美術鑑賞を楽しんでいる他の人たちにも動揺させないよう、温和な笑顔でやんわりと注意する態度は、この上なくエレガントでした。
とあり、さらに絵の前に張られたロープをくぐって遊んでいた五歳くらいの男の子に対しては、シンプルな英語で、
” Be a little gentleman! ” 「小さな紳士であれ」と呼びかけたのでした。
男の子はハッとした様子で背筋を伸ばして、ロープから手を離して誇らしげに母親のもとへ戻りました。
この光景を目にして、
「英国紳士は、ああやってつくられていくのね。どちらも素晴らしかったわ」
「……日本だったら『ダメでしょ!』とか『やめなさい!』ってまず𠮟りつけるところなのに……」
すると祖母が、こう言います。
「私も、『小さな武士であれ』って言って、うちの男の子を育てるべきだったかしら」
「それはそれで可愛いな! でもその場合、ガールズはどうなるん?」
「そうねえ……」祖母はし越しガン替え、こう答えます。
「小さな清少納言であれ」
「なんで清少納言? 紫式部とか……そう、美人で有名な小野小町とかじゃないん?」
すると祖母は、真っ直ぐに私を見て言いました。
「持って生まれた美貌はなくても、その気になれば、女性はどうにかこうにか綺麗になれるの。小野小町でなくても、努力でそれなりにはなれます」
何故私は、ロンドンくんだりまで来て、しかもナショナル・ギャラリーの大好きなカフェで、突然心臓をざっくりと刺されているのでしょう。
祖母は続けてこう力説しましt。
「紫式部は勿論優れた人だけど、やっぱり清少納言よ。落ちぶれていく主に忠誠を尽くしたわけでしょう。
しかもあんなサバサバして面白い文章を書いて、寂しい主を慰めて支えたんだもの。その生き方こそが美しいわ! 本当の美人っていうのは、そういう人のことを言うんです」
あれっ?
好きよ、そういう考え方。
すぐ疲れたと言ってわがままで手がかかるおばあちゃんと思っていた祖母に対する認識が、ガラリと変わった場面でした。
ロンドンで上演する「オペラ座の怪人」を観たり、ヴィクトリア駅からオリエント急行に乗ってディナーを摂ったり、五つ星ホテルでのアフタヌーン・ティーを楽しんだり、大英博物館、ハロッズと……まさにイギリス旅ど真ん中の「お姫様」旅です。
古い時代の祖母がちょっとズレた感覚なのを、孫娘が現代のイギリスに合わせてカバーしていくところが面白くて、まさに凸凹珍道中です。ちなみに窓娘はホテルでは「秘書」と勘違いされて、扱われているようでちょっと笑えます。
ちなみにオリエント急行に乗るときに、祖母は、
生地が軽くて柔らかい、お気に入りのレオナールのワンピースをまとい、レースのカーディガンを羽織り、薄手のコートを重ねています。
……ワンピースの華やかさに負けない真っ赤な口紅をキリリと引き、総白髪を雲のようにふわりとセットし、惚れ惚れするほど華やかな出で立ちでした。
思い出しても、あれは素敵だったな! と感じます。
西陣織のとっておきのクラッチバッグも、踵はぺたんこだけどドレッシーな靴も、わざわざこのためだけに持参していてびっくりしました。
80歳を超えているのに、孫娘に「素敵な装い」と言わせています。
私も疲れるからラフな服装でなんて言ってないで、たまには背筋をしゃんと伸ばして、もっとおしゃれを楽しもうと改心したエピソードでした。
そして孫娘は、この旅を始めてからずっと、祖母のこの漲る自信というか、自己肯定感の高さというか、そういうものが眩しくて不思議でたまらないのでした。
「どうしてお祖母ちゃんはいつもそう自信満々でいられるのかな!って。絶対、迷わないやん? いつも断言するし、自分のことそうやって美人だと思ってるし。凄い才能だと思うんだよね。そのつよつよ遺伝子、引き継ぎたかったわ~」
それに対して、祖母はこう応えます。
「もっと綺麗になれる、もっと上手になれる、もっと賢くなれる。自分を信じて努力して、その結果生まれるのが、自信よ」
家事にも育児にも趣味にも努力を惜しまなかった、そんな自分自身への信頼と尊敬が、祖母のあの堂々とした態度の源だったようです。
こういう考えは、古いという人もいるかもしれません。でも、平安時代の清少納言の生き方は現代の人が見ても、とても素敵だなと思うのではないでしょうか。
まあ、そういうことはさておき、旅エッセイとして読んでも、素適なお祖母ちゃんと孫娘との凸凹でエクセレントで楽しくもアクシデント続出の珍道中を楽しめますよ。
なんだか、私もイギリスに行ってみたくなりました~~ 🛫
祖母姫、ロンドンへ行く! [ 椹野 道流 ]
いつもありがとうございます。
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