クリーヴランドの貧民街の一角に、空地がありました。
そこはあらゆる廃棄物が捨てられている、いわゆるごみ溜めでした。
ある年の春、ひとりの女の子がここにマメを蒔きます。
空地をきれいにしようとか高邁な気持ちでしたのではありませんでした。
ただ、死んでしまったお父さんが昔、お百姓さんだったから、マメが育っていくのをお父さんが喜んでくれるだろうと思ったからです。
すると・・・
種をまく人/ポール・フライシュマン 作/片岡しのぶ 訳/あすなろ書房
それを古びたアパートの窓から見ていたのは、アナという年老いた女の人でした。
悪ガキが集まり犯罪がよく起こる場所だったので、埋めたのはドラッグかお金か拳銃だと思い、ある日、こっそりと掘ってみたのです。
マメが出てきたことにショックを受け、それからは双眼鏡を買って女の子を見守るようになったのでした。
やたら暑い日の朝、学校で用務員をしているウェンデルに、アナから電話がかかってきます。
女の子が4日も水をかけに来ていない。このままではマメが死んでしまうから、水をかけてきてほしいということでした。
仕方なしに水をかけに行くと、そこでウェンデルは女の子に遭遇して・・・
人生には、変えられないものが山ほどあります。
死んだ人間を生きかえらせることはできません。この世から悪人がいなくなることも、わたしが百万長者に変身することもできないでしょう。
だが、このゴミ捨て場の一角を畑にすることなら……。
そうだ、どうにもならないことを一日じゅう考えているより、畑をつくるほうがよっぽどましだ。
ウェンデルはそんなふうに考えて、空地の日当たりのよさそうな場所のゴミを片づけて畑を作り始めるのでした。
そのあと、ひとり、またひとりと、年齢、人種、境遇の異なる人たちが、ゴミを片づけてそれぞれがそれぞれの思いで種を蒔き畑を作りはじめます。
祖母が煎じて飲んでいたアキノキリンソウを植えてみようと思ったのは、リオーナです。リオーナは空地が市の土地だということを突き止めて、ゴミを片づけるように掛け合ったりします。
ヴァージルの父親はベビーレタスを大量に育てて、レストランに売りつけて一儲けしようと試みます。
脳卒中の後遺症で生きる気力をなくしていた車椅子のマイルズは、この畑を見て土の香りをかいで希望を見出しました。
やがてゴミは消えて、そこに瑞々しい菜園ができます。そして、菜園が出来ていく過程で、菜園だけでなく人々の間にも仲間意識が芽生え育っていきます。
夫亡きあと、強盗にあって人が恐くて外へ出られなくなったセ・ヨンは、こう語っています。
そこへ行って、小さな畑をつくりました。その日は、だれも話しかけてきませんでした。でも、だれかのそばに、いい人たちのそばにいるというだけで嬉しくて、冬の寒い日、火のそばにいるような気持でした。
この本では、菜園作りに関わった人たちのそれぞれは、短い物語として、その人の言葉でひとつ、ひとつ語られています。
「ごみ溜めを畑にしよう」と、誰かリーダーがいて始めたことではなく、また皆で申し合わせてやったことでもないことが、読んでいくうちにわかってきます。あえていうならば、見えない第三者が裏で導いたとしか思えません。
そうして、もうひとり、この畑作りに関わった人がいるとするならば、まぎれもなくこの本を読んでいるあなたでしょう。
この「種をまく人」を読んだあなたはきっと、ひとまず本を置いて、何かの種を蒔こうと思うに違いないのですから。
作者 ポール・フライシュマン
1952年、アメリカ・カルフォルニア州生まれ。海辺の町サンタモニカで育つ。
カルフォルニア大学及びニューメキシコ大学に学ぶ。
Joyful Noice:Poems for Voicesでニューベリー賞受賞。Bull Runでスコットディオール賞受賞。『半月館のひみつ』『わたしの生まれた部屋』(共に偕成社)がある。
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