ニューベリー賞作家のシンシア・ライラントがつくった不思議なカフェの話が7つあります。ヴァン ゴッホ カフェは、カンザス州フラワーズ町のメイン・ストリートにあるかつて劇場だった建物の片隅にあるそうです。カンザス州のフラワーズ町って、なんだか実在しそうでわくわくしますよね。
劇場のステージではふしぎなことが起こるから、魔法があふれていて、それがこのヴァン ゴッホ カフェにも起こるのだそうです。その魔法はハリー・ポッターのような派手で賑やかなものではありません。とても地味でささやかで、もしかしたら魔法が起こっていると気づかない人もいるかもしれません。この本に出てくるのは、そんな感じの魔法です。でも、そういう魔法もすてきです。なぜなら、もしかしたら私たちのすぐ傍で起こるかもしれないっていうそんなドキドキもあるからです。
このヴァン ゴッホ カフェの名前は、もちろんあの一生のうちでたった1枚の絵しか売ることができなかった画家であり、今は世界中の誰もが手にしたい、せめてひと目だけでも絵を観てみたいと願うようになったあの大画家のフィンセント・ヴィレム・ファン・ゴッホのことです。
このことは第7話の『 作家志望の男 』の所に出てきます。彼は作家になることを夢見て、4年間がんばったのです。才能もありました。でも、うまくいきませんでした。失意の彼は、コククジラを見ようと思って、オレゴン州の太平洋岸に行く途中でこのヴァン ゴッホ カフェに立ち寄ったのです。彼は作家になる夢をあきらめて、海のそばで暮らすつもりだったのです。ところが、そこに座っているうちにヴァン ゴッホ カフェの壁にしみ込んでいる魔法が、彼のうちではたらき始めたのでした。それは……。
そういえばバブルの時代に、日本人は世界中の有名な絵画を買いあさったのはよく知られている話です。日本にはたくさんの名画が集まりましたが、バブルが去ると共に、その絵も再び海外へと去っていったのだそうです。その中で、たった1枚だけ日本に残ったのが、ヴァン・ゴッホの「ひまわり」という絵です。この絵は今『東郷青児記念損保ジャパン日本興亜美術館』(東京都)に展示されていますよ。
第5話の『スター』という話も、なかなかステキです。
黒いマント、黒いカシミアのえりまき、黒い毛糸のてぶくろ、それに黒いステッキ。そうした黒ずくめに雪のような白髪。……そのひとは、かつては大スターでした。彼を知ってい入るのは、今はヴァン ゴッホ カフェのマスターだけでした。
「なぜ、 わざわざこのヴァン ゴッホ カフェにいらっしゃったのですか?」の問いかけに、かつての大スターは人を待っているのですと応えました。その待っている人というのは……? ここにもすてきな魔法の話が一つ語られています。
他にも、魔法のマフィン、まよいカモメ、オポッサムなど、小さな魔法の話があります。ところで第2話のオポッサムという動物は、どんな動物なのでしょう?
まるで夢のような、ミステリーのような、すばらしい油絵のようなヴァン ゴッホ カフェに、もし訪れることが出来たのなら、私にはいったいどんな魔法がかけられるのでしょうか……そう考えるだけで、なんだかわくわくしてきませんか?