人間というもののなかには、光と影というふたつの面がある。
そして、リヤカーを引っ張っていくふたつの車輪のように、
そのふたつがあってはじめて人生というものは成り立っているのかもしれない。
私たちはもういっぺんちゃんと、悲しむこと、人間らしく泣くこと、そして深い愁いに沈むこと、寂しさに徹すること、こういう心持ちを、取り戻す必要がありそうな気がするのです。
朝顔は闇の底に咲く/五木寛之/東京書籍
五木寛之さんの本を良く読んでいた時期がありました。
そして、また再び読みたいと思ったのは、
「本当に疲れ切ってしまった人は、後ろ向きでもいいんじゃないだろうか」
という趣旨の言葉をとある記事で読んだからでした。
今の世の中はポジティブ思考のみが価値があって、ネガティブは無価値どころかマイナスでしかないと言われる時代です。
この『朝顔は闇の底に咲く』は、一貫して不安や悲しみについて語っています。
しかし、それはたんなるマイナス思考ではありません。
どうにもならない人生、思うがままにならない現実を、どのように生きていくか。
この本には16のエッセイかありますが、
中学生の頃から朝顔日記をつけていて、高校、大学と生物学を学び、卒業後も朝顔の研究を続けている少女のことが書かれています。
彼女の疑問は「どうして朝顔は朝になって、あの大輪の花をきちんと咲かせるのだろう」ということでした。
「はたして朝顔の中に生体時計でもセットしてあるのだろうか。それとも気温の変化のせいであろうか」
朝顔をずっと一定の温度の中に置いたり、四六時中光を与え続けたり、彼女はいろいろな方法で実験をします。それでも、なかなかわかりません。
そして、その後に、彼女が考えた仮説が書いてありました。それは、
「アサガオの花が開くためには、夜の暗さが必要なのではないかと考えた」
そうか。朝顔が朝開くのは、夜明けの光とか暖かい温度のせいではない。
夜明け前の、冷たい夜の時間と闇の濃さこそが必要なのだ。朝顔は、夜の闇の中で花を開く準備をするんだな。
これは大変興味深い内容でした。
そういえば朝顔だけではなく、チューリップも冷たい冬の中で春に花を咲かせる準備をするといいます。冷たい土の中で冬を越さないと、ちゃんと花をつけないといわれています。
そんなことを思うとき、今、悲しみの中に引きこもっていたり、辛い思いをしていたり、深い愁いや寂しさの中にあっても、それはいつか花を咲かせるための大事なときなのだと思えてきます。
うしろ向きも結構!
生きてさえいれば、いつか花が咲く時もあるさ。
・・・くらいに、呑気に構えて生きていくことも大事なのかなと。
年々にわが悲しみは深くしていよよ華やぐいのちなりけり
ー岡本かの子ー
また岡本かの子さんの短歌も紹介されていて、五木氏の解説がありました。
一年一年、年を重ねていくごとに悲しみ、苦しみ、嘆き、そういうものは深まっていくばかりである。
しかし、目を逸らさずに真っすぐそうしたものを見つめていると、それが積もり積もっていく彼方の、その悲しみや憂いのむこう側に、華やいで生き生きと活性化している自分の命というものが見える。
今、マイナス思考と言うものが、一種の恐れを持った感覚でとらえられているような気がしますが、むしろ、プラス思考とマイナス思考というもののふたつの両輪を、私たちは大事にして生きていかなければならない。
他のエッセイでは、女子高校生からの投書のハガキのことが書かれていました。
自分はもともと暗い性格なのだが、学校でイジメられないために面白いやつだという仮面をかぶってきた。いろいろ面白いことを考えて家でリハーサルまでやって、学校でそれを実演してみる。・・・そうやって高校まできて、仮面をかぶって生きていくことに疲れてしまった。もう、学校に行きたくない。
要約すると、こういう内容でした。これについては、
暗いということ、陰気であるということ、内気であることは、その反面、人間が非常にデリケートである。あるいは優しい、繊細な感覚を持っているということと表裏一体なのです。
ところが、そういう無口でものごとに傷つきやすいような人間は、今の学校や社会では生きていくのが難しい。そのために生き生きと行動的で、そして明るいという仮面をかぶって生きていかなければいけない。
なんと不自由な時代であろうかと思いました。
と、五木氏は書いていました。
五木氏の語るエピソードは全体的に悲観的な印象がありますが、読んでいると心の奥底でほっとする自分がいるのも確かなのです。
この本は五木寛之氏らしく、生きるのに疲れたときに、
「後ろ向きだっていいんだよ。ため息をついて、うんと泣けばいい」
と、静かに強く言ってくれているような本でした。
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著者・五木寛之氏
1932年9月福岡県に生まれる。生後間もなく朝鮮に渡り47年引き揚げ。
66年「さらばモスクワ愚連隊」で第6回小説現代新人賞、67年「蒼ざめた馬を見よ」で第56回直木賞、76年「青春の門」筑豊編ほかで第10回吉川英治文学賞を受賞。
代表作に『朱鷺の墓』『戒厳令の夜』『蓮如』『生きるヒント』シリーズ、『大河の一滴』『他力』『天命』『林住期』『人間の関係』『人間の運命』『僕が出会った作家と作品』など多数。
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