松尾純一郎、57歳。
大手ゼネコンを早期退職し、珈琲店を始めたが早々に失敗し現在は無職の身の上。
まだ大学2年の娘は家を出てアパート暮らし。妻も純一郎に愛想をつかして、娘のアパートに移り住んでしまった。
再就職のあてもないし、お金もないし、趣味もない。
娘にの就職のアドバイスをしたら、逆に「お父さんって、本当に何もわかってない」といわれてしまいます。
自宅近くの喫茶店で珈琲の話をすればアルバイトの子に知ったかぶりと思われ、悔しさのあまり電車に乗って街をさまよいます。ふらりと入った老舗の喫茶店の珈琲に癒され、一軒、また一軒と喫茶店めぐりをするのでした。そして、純一郎は・・・
これから、趣味は「喫茶店、それも純喫茶店巡り」にしよう。
決めた。今決めた。
喫茶おじさん/原田ひ香 作/小学館
そもそも喫茶おじさんこと松﨑純一郎が「喫茶店をやりたい」と思ったきっかけが、TVで紹介されたアメ横の小さな店だった。
カウンターだけの小さな店で、自分がずっとこだわっている。本当においしいと信じるコーヒー豆を使って一杯一杯丁寧にコーヒーを淹れている店主は堂々としていた。
そんな姿に感銘を受けたし、自分もあんなふうに生きたいと思った。
最初は、喫茶店をやるとか独立するとかではなく、店主の姿勢や人生にひかれて、密かにコーヒーの勉強を始めた純一郎だったのだ。
それが会社の早期退職制度の発表に背中を押され、「喫茶店開業教室」に1か月通っただけで、都内の繁華街に大きな店を開くことに。アルバイトも2名雇っていた。
当時のアルバイトの1人、店を潰した今も純一郎を店長といってくれている現役大学生の斗真に、喫茶店巡りをして気づいたことを嬉々として語った。
すると斗真にも、「それも知らずに、店を出していたんですか」とため息をつかれ、「店長って、何もわかってなかったんですねえ」といわれてしまう。
「喫茶店開業教室」の同期で、リノベーションした小さな喫茶店を軌道に乗せてがんばっている20歳も年下の森田さくらには、
「松尾さん、自分のこと、本当にわかってないのねえ」
「最初から、松尾さんの店、うまくいくはずがないって」思っていた。(松尾さんには)「再就職の話なんてない」とまでいわれてしまう。
他にも、会社員時代の同期の松井や、周囲のさまざまな人から、純一郎は同じように「何も分かってない」といわれ続けるのです。
その言葉に胸を痛めながら、純一郎は都内の純喫茶をめぐりながら考えます。
純一郎の話がほろ苦くしょっぱい話の縦糸だとすれば、喫茶店は絶品のコーヒーを淹れる名店ばかりです。その語り口はちょっと「孤独のグルメ」に近い趣があります。
決めゼリフは、
「おいしいなあ」。
純一郎は人生後半になってから自分の人生をリノベーションしようとしながら、うまくいかずピンチの連続のなかで、右往左往しながら純喫茶巡りをしていきます。
失ったものばかりに見える松尾純一郎は、いったいどんなところに辿り着くのでしょうか。
登場する喫茶店は、行ったことがあるお店もありますので(閉店していなければ)どれも実在する素敵な純喫茶ばかりです。
本を読んでいるだけで、どこもみんな行ってみたくなってしまいそうです。
純喫茶以外でも、すてきなお店はたくさんありますね。
あなたも「喫茶おじさん」を片手に、喫茶店巡りをしてみてはいかがでしょうか?
作者 原田ひ香
1970年神奈川県生まれ。2005年「リトルプリンセス二号」でNHK主催の創作ラジオドラマ脚本懸賞公募最優秀作に選出され、07年「はじまらないティータイム」ですばる文学賞を受賞。著書に「ランチ酒」「三人屋」などのシリーズ。『母親ウエスタン』『三千円の使いかた』『DAY』『まずはこれ食べて』『口福のレシピ』『財布は踊る』『老人ホテル』『図書館のお夜食』など。
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