桜さくら堂

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北風のわすれたハンカチ/安房直子/感想・レビュー/児童文学

安房直子さんの作品は、冒頭の1行を読んだだけで、もうすでにその不思議な世界にぐうっと引き寄せられてしまいます。

そこからあなたは、もうふしぎな物語の世界に入っていって、気づいたときにはすでにふしぎな世界の住人になっていることでしょう。

 

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北風のわすれたハンカチ 安房直子・作/偕成社

お題「我が家の本棚」

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北風のわすれたハンカチ

 

くる日もくる日も北風の吹く寒い山の中に、クマの家がありました。

 

これだけでもう、クマの寂しいようすが手に取るようにわかってきますね。

このクマはツキノワグマで、四歳でした。クマは四つで大人になるのですが、このクマについて、こう書いてあります。

 

胸の白いかざりは、くっきりと、すてきな三日月形をしていましたし、からだも、なかなかりっぱでした。

けれども、心は、まだすこし子どもでした。

「さびしくて、胸の中がぞくぞくするよ」

 

クマはひとり暮らしでした。半年前に、

 

やっぱりこんな風の日に、人間というやつがきてね、

父さんがドーンとやられて、

母さんもドーンとやられて、

妹も弟もみんなおんなじで、ぼくだけ残ったんだよ。

 

と言います。

もう、これだけでこのクマの今置かれている寂しい暮らしが、よくわかってきます。そして今年は、冬をたった一人で過ごさなければならないのです。

 

とってもさびしいんだ。胸の中を、風がふいているみたいに。

 

そこでクマは、音楽をおぼえて寂しさをまぎらわそうと思い、

どなたか音楽をおしえてください。

お礼はたくさんします。

という張り紙を出しました。

 

最初にやってきたのは、青い馬にのった青い人でした。北風でした。

その人は手に金色のトランペットをにぎっていました。

けれど、トランペットを口に持っていったら、前歯にぶつかって歯が1本折れてしまったのです。

「もう、見込みがないね」北風はいうと、冷蔵庫に大切にしまっておいたパイナップルの缶詰を持っていってしまいました。

クマに息は、抜け落ちた歯のすき間から、すうすうと小さな風のようにぬけて、前よりも寂しくなったのです。

 

つぎにやってきたのは、青い馬にのった青い女の人でした。この人も北風で、バイオリンを持っていました。

クマがメヌエットのすばらしい調べを胸にうかべて弓をこすると、体じゅうに鳥肌が立つほど嫌な音がでました。

「あんたには、すこしむりなんだよ」北風のおかみさんはいうと、冷蔵庫にしまっておいた山ぶどうのかごを、教えたお礼にと持っていってしまいました。

 

クマはすっかり、ガッカリしてしまいます。前歯を折ってしまったうえに、冷蔵庫も空っぽになってしまったわけですから。

やがて雪がふってきました。するとまた、青い馬にのった青い人が立っていたのです。

クマはまただと思って、青い人にはうんざりしていたのですが、今度の北風は、まだ子供でした。

 

まるで、青い花びらのように。少女は、母さんゆずりのながい髪の毛を風になびかせて、

「クマさんこんにちは、お元気ですか?」と、あいさつしました。

 

この少女がとても感じが良かったので、家に入れてお茶を出して、お菓子が何にもなくてというと、

少女がポケットから青いハンカチを出して魔法をかけます。

すると、ハンカチの上にホットケーキの材料とはちみつがのっているのでした。

北風の少女はホットケーキを焼いて、はちみつをかけて、一緒に食べるのです。

その時、少女は、

「ねえ、知ってる? 雪も、落ちてくるときは音をたてるのよ」

なんてことを言うのです。そこで、クマも耳をすませます。すると・・・

 

ほと、ほと、ほと、ほと、

小さな小さな音でした。けれど、やさしいあたたかい音でした。

白い花が散るときも、こんな音がするでしょうか。

月の光がこぼれるときも、こんな音がするでしょうか。

 

クマは胸がほかほかしていましたが、この子が遠くへ行ってしまったら、雪の音が聞こえないような

また寂しい自分になってしまうのではないのだろうかと、やりきれないほど悲しくなりました。

北風の少女はそのことを知っていて、しょんぼりと小さな声でいうのです。

 

あたしね、そろそろでかけなければならないの。

父さんと母さんのあいだは山三つ分。母さんとあたしのあいだも、山三つ分。

けっして、それよりはなれてはいけないの。それが、北風の国のきまりなんだもの。

 

クマに後ろを向いて、50まで数を数えるようにいって、少女は去っていきます。

クマがやっとの思いで50まで数えて、「もういないんだな」と思ってふりかえると、

さっき少女がすわっていた椅子の上に、

さっきの青いハンカチが、ふわりと置いてあったのです。

 

クマは、すてきなことに気づきました。

(あの子は、またここへくるかもしれないぞ)

そうです。だいじなハンカチをわすれたのですから、この次ここをとおったときには、きっとよってくれます。

 

大事にしまっておこうと考えて、クマはそのハンカチを一番安心な場所を思いつきました。

それは自分の耳の中でした。

すると突然ふしぎな音楽が聞こえてくるのです。

ほと、ほと、ほと、ほと・・・

ああ、それは、雪の音でした。

 

いつか、クマの家は、このやさしい雪にうもれていきました。屋根も、えんとつも、すっぽりと。

そして、家の中では、耳に、青いハンカチを、花のようにかざったクマが一ぴき、しあわせな冬ごもりにはいったのです。

 

私はふと、北風の少女は、ほんとうに青いハンカチを忘れていったのかしら? と思うのです。

もしかしたら、わざと置いていったのかもしれないと。

北風の女の子は、先に来た2人と違って、クマにとてもやさしくします。

 

このクマは去年の冬は、家族がたくさんいたのです。

家族と一緒に、冬を越していました。

ところが、今年の冬は、ひとりぼっちで寂しく過ごさなければなりません。

だけど北風が忘れていったハンカチがあって、クマは幸せな気持ちで過ごすことができるようになりました。

春になったら、きっと、今度は心も大人のクマになっていることでしょう。

だけどそのクマは、きっと心に、優しさのカケラをそっと抱いたクマになるのではないでしょうか。

なぜなら、自分がそうされたからです。

人に優しくするのはどういうことなのかを、知ったからです。

寂しくて、心の中に北風が吹いている人に、どうしたらいいのかをこの北風の少女は教えてくれています。

 

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小さいやさしい右手

 

ずっと昔。

森の、大きなかしわの木の中に、まものが一ぴきすんでいました。

 

この魔物はまだ子供で、使える魔法は、右手に欲しいものが入ってくるというものでした。

魔物は覚えたてのこの魔法を、誰かに見てもらいたいと思いましたが、魔物というものは一人前になる前に、人に姿を見せてはならないという決まりがありました。

魔物がいるかしわの木の前を、毎朝そろって姉妹が通り過ぎました。姉妹の母親は2人を差別しました。妹の娘は自分の本当の子供ではないので、錆びたカマを渡したのです。

それで妹の娘は、草を刈るのに手間取って帰りがいつも遅くなったのでした。

そこで魔物は、妹の娘に声をかけて、よく切れるカマを貸してやることにしました。

その時の合図は、やさしい声で、こう歌うのです。

 

小さいやさしい右手さん

あたしにかまをかしとくれ

氷みたいによくといだ

まほうのかまをかしとくれ

 

すると、木の影から魔物の手がにょっきりとのびて、研ぎ澄まされたカマがにぎられていました。

妹の娘は、そのカマを使って草刈りが早く出来るようになりました。

しかし、それを不審に思った姉の娘に秘密を知られてしまい、母親に告げ口をします。

母親は妹の娘よりも朝早く来て、マネをして歌を歌うと、木の後ろから黒い手がのびてきて、ピカピカのカマを差し出しました。

そうして母親は、そのカマをひったくると、いきなり、魔物の手の上に降りおろしたのです。

こうして、魔物の子供は、右手を失くしてしまったのでした。

 

まものは自分の手を切ったのは、てっきり、あの子なのだと思っていました。

とつぜんうらぎられたおどろきは、十日たっても、二十日たっても、まものの胸から、はなれませんでした。

 

そうして、何か月かすぎ、まもののこのおどろきは、やがてかなしみにかわりました。

まものはこのとき、かなしいということを、はじめて知りました。

 

そして……そんなかなしみがたびかさなると、なみだのかわりに、まっ黒いいじわるな心がむらむらとわいてくるのが、まもののさだめなのでした。

 

そして魔物は、あの娘に、しかえしをしてやろうと考えるのです。

20年もかかって魔物は、人間の姿をほかのものに変えるという新しい魔法を身につけました。

人間の子供の姿になった魔物は、村へ行って、ギラギラした目であの娘を探しますが、なかなか見つかりません。

なぜなら魔物と人間の生きる時間の長さが違っていて、魔物はまだ子供のままなのに、人間はもう大人になっていたからです。

それでもやっと探しあてた娘は、粉屋のおかみさんになっていました。

粉屋のおかみさんは、魔物とは知らないで、やさしくしてくれてお菓子までくれたのです。

 

ああ、この人だろうか・・・でも、まさか・・・まものの片手は、なぜか、ぶるぶるふるえました。

 

まものは、とぎれとぎれにいいました。

「おばさん・・・お菓子をくれたあなたの手を・・・いきなり切ってしまうなんて・・・そんなこと、ぼくには、とってもできないな・・・ねえ、そうでしょ、そうじゃないの、おばさん」

 

おかみさんは魔物の腕を見て、なぜ、こんなことになってしまったの?と言って、涙を流します。

魔物はこのとき、初めて涙というものを見たのです。

そのうち、なんとなく、そして、だんだんはっきりと、まものは、ほんとうのことをしりました。

「ねえ、あなたじゃなかったの?」

 

「じゃあだれ? だれがしたの?」

そういう魔物に、おかみさんはこう言います。

「わからないわ。でも、もうその人のこと、ゆるしてあげられない?」

 

「ぼくには、とってもできないな」

しばらく、ふたりはだまっていました。

やがて、まものは、しょんぼりといいました。

「だって・・・あなたのいうことが、ぼくにはわからないんだもの。なぜそうしなきゃならないのか、どうしてもわからないんだもの」

そしてこのとき、まものは、はっとしました。

(それは、ぼくが、まものだからだろうか)

いまはじめて、まものは、自分がまものであることを、つくづくかなしいと思いました。

おかみさんの持っている、ひとかけらのすきとおったものを、自分もほしいと思いました。

 

そして、いまはじめて、まものの目から、ポロンと、なみだがおちました。

 

このお話は、とても大切な課題が書いてありますね。

そして、なかなか出来ません。

人を許すということです。

憎しみは憎しみの連鎖しか生まないとよく言われます。

どこかで、誰かが、許さないと、それは永遠に続いていってしまいます。

理屈ではわかるんですが、これは本当に難しいことです。

 

「ま、いっか。」

 

これです。

どんな小さなことでも、許すと、なんだか肩の辺りが軽くなったような気がしませんか。

「許せなかったら、許せない自分を許すといってください」

と言っているのは、斎藤一人さんです。

 

それにしても、魔物がいきなり裏切られた驚きから、悲しみ、それから憎しみに変わっていく心情が本当に良く書けていて心に伝わってきますね。

さて、このお話のラストは書かないでおきました。

 

赤いばらの橋

 

がけっぷちに、みどり色の鬼の子がこしかえて、遠くをながめていました。

がけの下は、ぞっとするほどふかい谷で、そのむかいがわにも、やはり、切りたったがけがありました。

 

小鬼はがけの向こう側には何があるのか、知りたがっていました。

南側の森からは、きれいな音楽が聞こえてくるので、鬼ではないと思っていました。

そんなある日、赤いフェルトの帽子が強風で飛ばされてきたのです。後ろにはリボンがあって、甘いにおいもします。

小鬼は、この赤い帽子の持ち主は、「いいにおいのする、かわいい女の子」だと思いました。

そこで、返してあげようと思い立ちます。

仲良しの鬼の女の子に、三つ編みのやり方を教えてもらうと、蔦を三つ編みにして、崖の間につたの橋を渡します。

小鬼はつたの橋を渡って、崖の向こう側へと行くのです。

 

南のがけの上には、魔女が住んでいました。魔女は森の中に大きなバラ園を持っていました。

魔女には小枝という娘がいて、バラ園の真ん中の香水工場で働いていました。

そこからよく耳にしたやさしい音楽が聞こえてきます。

 

「ああきっと、ここにいるんだ」

小鬼は、塔にかけよって、大きな声でよびました。

 

すると、音楽がやみ、とびらがぱっとあいて、顔をだしたのは、いじけたように小さい女の子でした。

灰色の髪は、ほうきのようにボサボサで、まるで、イタチみたいな顔をした、魔女のむすめでした。

 

小鬼はがっかりします。

するとその魔女の子は、「あんた、母ちゃんに、みつかりゃしなかった?」と聞きます。そして、

見つかったら捕まえられてしまうといって、小鬼をかくまってくれて、マンドリンを弾きはじめます。

 

小鬼は、ついさっきまで、遠くのがけできいていたこの楽器を、こんなにも近ぢかと見ることができるのが、夢のような気がしました。

それにしても、目のまえにいる、この女の子は、なんてみっともないのでしょう・・・小さな頭に、赤い帽子をのせて、いっしんにマンドリンをひいているすがたを見ているうちに、小鬼はなんだか、もの悲しい気持ちになりました。

 

マンドリンの調べやかわいい赤い帽子を見て、小鬼はかわいい女の子を想像してきたのでしょう。

現実はまったく違っていてがっかりしたのですが、その先には、こう書いてあります。

 

けれど、とろけるような花のにおいの中で、きれいな音楽をきくよろこびを、小鬼は、はじめてしったのでした。

 

そしてまた魔女の子が、母親の魔女から何度もかくまってくれてから、少しずつ気持ちが変化していくのです。

 

「おくってあげるから、早くおかえりよ。でもあんた、いったい、どうやってここへきたの」

小枝は、やさしくききました。

「ぼくは、橋をわたってきたの。たった一本のつたの橋」

「つたの橋? それじゃ、早くしないとあぶないよ。母ちゃんは、大きな花ばさみを持ってるの」

「そう・・・」

このとき、小鬼の目に、女の子のすがたは、とてもなつかしいかわいいものにうつりました。

「こえだちゃん・・・」

小鬼は、はじめて女の子を名まえでよびました。すると、きゅうにかなしくなりました。

 

小鬼の気持ちの変化が、丁寧にすくいあげて書いてあるのがよくわかるところです。

これは星の王子さまでいうところの、ただのバラが、特別な1本のバラになるところと同じだなって思います。

 

お話はこの後もつづきますが、それはお楽しみにとっておきましょう。

 

作者・安房直子

1943年、東京に生まれる。日本女子大学国文科卒。

在学中より山室静氏に師事。

「目白児童文学」「海賊」を中心に物語を発表。

「さんしょっ子」第3回児童文学者協会新人賞、

「風と木の歌」第22回小学館文学賞、「遠い野ばらの村」第20回野間児童文芸賞、

「花豆の煮えるまでー小夜の物語」赤い鳥文学賞など多数。

 

 

 


北風のわすれたハンカチ (偕成社文庫) [ 安房直子 ]

 

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私事で忙しくなりますので、少しお休みいたします。

1週間くらいかな・・・。

 

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