夜が終わって、朝になる前の一瞬、自然の沈黙がおとずれる……という《あおいじかん》を見るために、カイトとみくが夜明け前の小さな冒険旅行に出かけてゆく。
あおいじかん/長崎夏海・作/小峰書店
カイトの父親は、フィリピンに単身赴任している。
夕ご飯を食べている時、TVにフィリピンの青い空と青い海がうつった。夜明け前の真っ暗な空が、しだいにむらさき色に近い紺色へと変わっていく。画面を見ていた母親が、「あおいじかんだ」とつぶやいた。
ベースはフランス映画《レネットとミラベル四つの冒険》の一つ、『青い時間』らしい。フランスで青は、贅沢・高貴を意味するとか。
カイトと一緒に《あおいじかん》を見に行くみくというクラスメートの少女は、たまたまカイトのマラソンコースにいたというだけのつながりだ。みくは朝っぱらから、鴨にエサをやりながら、一人でパイナップルを食べている。鴨とごはんを食べると楽しいからだという……どこか訳あり?な少女だ。
雨の朝、うずまきパンを食べて意気投合した二人は、世界が終わる瞬間だという《あおいじかん》を見に行く約束をする。
翌朝五時、行き先は近くの公園だ。しかし、二人は木の茂みの不審な物音に怖くなって逃げだしてしまう。つぎの駅前ほ広場は、騒音が激しく断念。諦めておにぎりを食べながらの帰り道、みくが指さす先を見ると……。
うすむらさきの道が、どこまでもどこまでもつづいていた。
あの先には、きっと見たこともない世界があるにちがいないと思えてくる。
トラックがすごいスピードで走りぬけて、あっという間に《あおいじかん》は終わってしまう。ほんの一瞬だけの《あおいじかん》、沈黙の世界を二人は共有した。そして、
「あおいじかんってのはな、せかいのはじまりなんだぜ」
と、カイトはいうのだ。
この本にも映画にもなかったが、じつは《青い時間》というのは、朝と夕とにある。
黄昏時だった。高校の教室、二F窓際、前から二番目の席で、確か古典の授業中だったと記憶している。
正門から校舎へとつづく道が、一面うすむらさき色に染まっていた。それはただ美しいというだけでは済まない、今生のものとは思えないほどの幻想的な世界だった。心を奪われるというのは、こういうことをいうのかと知った。
そうか。あれを《青い時間》と呼ぶのかと、今更ながらに思う。
長崎夏海さんの『あおいじかん』で、二人が南の島とか、人里離れた山奥とか、世にいう絶景の場所ではなく、日常のありふれた所で《あおいじかん》に遭遇したのがうれしい。
私は朝の通勤通学の人で混み合う駅のプラットホームの中に、大きな虹がかかるのを、一人で見たことがある。多くの人はさまざまな理由で、それに気づかなかった。
この世界は美しい。どんな雑踏の中でも、どんなささやかな場所でも、心を開いて見さえすれば、この世界は限りなく美しい。煌めきは何でもない日常のそこここに潜んでいて、私達はただそれに気づかないだけなのだ。
さらにいえば、人と人との温かなつながりは、もっと美しく素晴らしい……と、この『あおいじかん』は気づかせてくれる。
今週のお題「最近おもしろかった本」
長崎夏海さん
1961年東京生まれ。日本児童文学者協会会員。
「トゥインクル」(小峰書店)で日本児童軍学者協会賞受賞。
幼年童話に「ちきゅうのなかみ」「悪魔とドライブ」「あかいきりん」(以上小峰書店)「いちばん星、みっけ!」(ポプラ社)などがある。
心がけていること:本気の言葉で語ること。体をきたえること。
好きなこと:ダイビングとバイク、猫といっしょに空をみること。(ビール付き)
みなさん、こんにちは💛
いつもご訪問をありがとうございます。
作者の長崎夏海さんはジーンズと海が良く似合うカッコいい女性です。
ダイビングの話を生き生きとされていて、すぐ影響される私が、
「ダイビングしたいけど、沖縄にはなかなか行けないし……」と言ったら、
「近くでも八丈島とかも、ダイビングにいいから」って言っていたのを思い出します。
そして彼女はダイビング(仲間の彼)と結婚して、筆をおり、島へ移住したのでした。
今ごろ、どうしているのでしょうか・・・。
やっぱり、潜っているのでしょうね。
いつもクリックありがとうございます💛^^
↓ ↓ ↓
にほんブログ村