きこえてくるのはラヴソング
さあ 泣かないで
さあ 立ちあがって
耳をすまして
いつでも
だれかが くちずさんでいるはず
あなたへの ラヴソング
おもいだして
あの日の ラヴソング
ほら
明日のあなたへの ラヴソング
風のラヴソングは作者の越水利江子さんが、自身の子供時代をふり返って、
あのころ、読みおわったあと、力になる物語に出会えていたらと・・・
そんな気持ちから、
今もたたかいつづけているひとりぼっちの幼い戦士たちのために書きつづった少女・小夜子の一生を通して描かれるさまざまな「愛」の物語です。
越水利江子・作/中村悦子・絵/講談社・青い鳥文庫
金の鈴
1階のベランダから、もくもくと黒いけむりが上がっていた。
このお話の語り手は、太気といって、小夜子と太陽の長男になります。上の子が結子といい、この娘がダイヤモンド・ダストのお祭りの時の子ですね。
二人は結婚して、今は五階建ての団地の2階に住んでいます。
黒いけむりは、おれの家の階下の三宅さんというおばあちゃんが、ベランダで魚を焼くけむりやった。
このおばあちゃんは、”しちりん”というキャンプ用のコンロみたいなやつに炭を入れて、秋刀魚とかイワシとかをベランダで焼くのです。すると、干してある洗濯物や布団が魚臭くなってしまうので、ご近所では大騒ぎになります。
他にも、団地の前の芝生を刈らせないので、野原みたいになってしまい、団地のみんなからは、虫が飛んでくると苦情を言われたりしています。
でも、この草原にはいろいろな花が咲きます。
春一番は、青い小さな星が落ちてきたように野原一面に咲くおおいぬのふぐり。
そのころからたんぽぽも咲きはじめて、それから、すみれやひめおどりこ草、はこべの白い花も咲く。
そのあと、母子草、しろつめ草にきゅうり草、にわざきしょう、からすのえんどう、ねじ花、へびいちごなど数えきれないほど咲くのでした。
そして、おばあちゃんは、この野原からつんできた草で、たんぽぽの根っこのきんぴらや、よもぎのお団子をつくって、小夜子の家に持ってきてくれるのです。
こんなふうに小夜子の家族は、おばあさんと仲良く暮らしています。とくに上の娘の結子は、おばあちゃんによくなついていて、いつも一緒になにかやっているようでした。
ところが、ある日、おばあさんがボヤを起こしてしまいます。
すると今まで我慢していた団地の人が、いろいろ文句を言いはじめたのです。
おばあちゃんの方も、独りで暮らすことに自信がなくなってしまい、東京に住んでいる息子と暮らすということになりました。
引越しの前日に、おばあちゃんは小夜子の家に、蚊帳を置いていきます。
また結子とおばあちゃんが、外の芝生でしゃがんで何かをしていました。何をしていたのかは太気にはわかりませんでしたが、味付けのりのガラスのびんがいくつも転がっていたのでした。
夏の終わりに、お父さん(太陽)が、蚊帳を寝る部屋の天井から吊り下げました。すると、開け放した窓から気持ちのいい夜風が吹いてきます。
太気が蚊帳の中に寝てみると・・・
なんだか、深い深い海の底で、ゆれる波を見上げているような気がした。
そして、
風といっしょに、リリリ・・・リリリ・・・と、きれいな、鈴をふるような音がきこえてきた。
「あ、おばあちゃんの鈴虫!」
お姉ちゃんが小さな声でいった。
あけななした窓からきこえる鈴をふるような音は、すこしずつ増えて、なんだか、寝ているおれたちが、鈴虫の鳴き声のなかに沈んでいくような気がした。
それは、夜つゆでしめった風にのって、遠く近く、重なりあい、ひびきあって、天井から降ってくるようにもきこえた。
「あれは、鈴は鈴でも、金の鈴や。小さな鈴が、百も千も、海の上をころがっているようや」
そんな声を夢うつつで聞きながら、太気が深い眠りにあ沈んでいくのでした。
なんて豊かな眠りなんでしょうか・・・。
おばあちゃんと結子は、引っ越しの前日に、それまで飼っていた鈴虫の幼虫を野原にはなしたのでした。鈴虫は東京のマンションでは飼えないからでした。
除夜の鐘さえもがうるさいと苦情がくるという昨今です。
みんなそれぞれに、事情を抱えているのでしょう。それはわかりますが、
やはり自分とは違う生活習慣の他者を受け入れるキャパが、どんどん狭くなってきていることに寂しさを感じるのは、私だけでしょうか・・・・。
現代の日本には、縦には古い世代と新しい世代との違いが、横には世界各地の人たちとの違いがあって、そこに溝のようなものができているようですね。
この物語には、ちょっとひと昔、ふた昔前の生活習慣のまま生きているおばあちゃんと、それを取り巻く現代の合理的な人間関係と、おばあちゃんを温かく包み込むように受け入れて見守っている心やさしい家族のことが、美しい情景とともに描かれています。
そして、ほんとうの心の豊かさとは、ほんとうの幸せとはどういうものなのか、いろいろと考えさせられます。
ただ読んでいると、なぜか心がほっこりとして、豊かになったような気持になってきます。小夜子の家庭の温かさからくるものでしょうか・・・。
※ 風のラヴソングは、どれも短いお話になっていますが、どれも内容が深くて濃い作品なので、ぜひ深く味わっていただきたいので、何回かに分けて感想を書いてみたいと思います。
著者紹介:越水利江子さん
高知県生まれ、京都育ち。
「風のラヴソング」(岩崎書店)で、日本児童文学者協会新人賞、
文化庁芸術選奨文部大臣新人賞受賞。
「あした、出会った少年」(ポプラ社)で、日本児童文芸家協会賞受賞。
他に「花天新選組君よいつの日か会おう」(大日本図書)、
「竜神七子の冒険」(小峰書店)、「ぼく、イルカのラッキー」「月夜のねこいち」(共に毎日新聞社)、「忍剣花百姫伝」シリーズ、「こまじょちゃん」シリーズ(共にポプラ社)、「霊少女花」シリーズ(岩崎書店)、「百怪寺・夜店」シリーズ(あかね書房)など、ヤングアダルト、エンターティンメント、幼年絵本まで作品多数。
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