主人公の松原ツトムは日本に住んでいるふつうの小学5年生。
電車友だちのゴウとは、ゴウが遅刻して琵琶湖一周の電車に乗り遅れたため、春にけんかをしたままの気まずい関係。
夏休み、氷河の調査をするという父親に連れられて行ったネパールは、何もかもが日本と違っていて驚くことばかり。
そこで知り合ったパ二という少年と、山で家畜の世話をすることになったのだが、言葉は通じないし次から次と想定外の出来事が起こるのでした・・・
ともだちは、サティー!/大塚篤子・作 タムラフキコ・絵/小峰書店
★あらすじなど
小学5年生の松原ツトムは、4か月前、いっしょに乗るはずだった琵琶湖一周の電車に、友達のゴウが遅刻をしたため乗り遅れてしまい、急かせたゴウが車にはねられて大けがをしてしまった。
ツトムはいつまでもゴウが許せず、2人は気まずい関係になったまま夏休みになった。
そんな時、父親が働いている大学の地質学教室で、ネパール北東部に氷河調査の下見に行くことになり、ツトムもついていった。
空気は生ぬるく、日本ではかいだことのないにおいがした。花のような、土のような、食べ物のような、薬草茶のような、ほこりっぽいにおい。
ネパールに着いた時の感想を、ツトムはこう言っている。
首都カトマンズから目的のヤラ村までは、マイクロバスと徒歩で6日もかかる。
ほとんどが徒歩で山を越えていくのだ。
ヤラ村では大歓迎されるのだが、到着した時、少年からもらった牛乳をツトムは生ぬるいからと捨ててしまうのだ。
また、父親と氷河調査に行く予定だったが、雪が多く残っていて危険なため、村に残ってパ二という少年が山へ放牧へ行くのを手伝うことになってしまった。
しかも、この少年はツトムが牛乳を捨てたのを見ていて反感を持っていた。
生活もまるで違い言葉も通じない中で、ツトムはパ二といっしょに15頭の牛と5匹のヤギを連れて山へと登っていく・・・。
★感想・レビュー
緑の原っぱのずっと下を、銀色に光る細い川が流れている。
遠くには牧草地をとりかこむように深い緑色の森が広がり、その後ろは青い山がせまっている。
そのもっと遠くには白い山々の頭が見えた。草のにおいがする空気を、胸いっぱいに吸いこんだ。
まる1日牛を追いながら歩いて、ツトムが山の牧草地にやっとたどり着いたときの思いがこのように書かれています。今の日本には、なかなか出会えない風景です。
しかも車で来たはなく、牛を追って歩いてきたからこそ、その自然の美しさに胸を打たれたのかもしれません。
でも、ここからが大変です。
火はマッチやライターではなく、薄い金属の板に白っぽい石を打ちつけて火を起こすのです。
食べ物は、沸かした湯にトウモロコシの粉を混ぜて作るマッカイ。上に削ったチーズや桃色の山の塩をふりかけるだけ。
ツトムはパ二との生活や色いろな違いを、肌で感じ取っていきます。
パ二の誇りは1人前に家畜を連れて山へ入ることですが、ツトムは学年別のサッカーで連続ゴールをしたこと、電車の写真を撮るのが上手いこと、計算コンクールでクラス2位になったこと、そして貯金が2万6千円もあること。
どちらが偉いというわけではなく、自分とは全く違う価値観があるのだということに気がついていきます。そういう違いを頭の片隅に入れておくと、広い考え方が出来るようになるのではないかと思います。
慣れない生活でツトムはお腹をこわしたり、危険な目にあったりしながら、お互いに一歩一歩ずつ、ツトムとパ二は距離を縮めてゆきます。
ここは世界共通ですね。
言葉が上手く通じなくても、お互いを思う気持ちがあればいいのです。
ツトムは大きな牛にいじめられて、エサが食べられないエガラという小さな牛に草を思いっきり食べさせたくて遠くへ連れ出したのですが、エガラが森を抜けて岩山まで登ってしまい夜になっても帰れなくなってしまいます。
それをパ二が見つけて助けてくれます。
勝手なことをしたツトムをパ二はすごく怒ったのですが、同時にツトムを気遣ってもくれたのです。
この時、ツトムはゴウとのことを思い返したのです。
激怒したパ二とさっきの自分、激怒したあの春の日の自分とゴウ。
まったくちがったのは、ありったけの言い訳をまくしたてたさっきの自分と、ひとことの言い訳もしなかったゴウ。
思いもかけず気づかってくれているパ二と、いまだにまだゴウが悪いとがんこに思っている自分。
友情もやはり、世界共通ですね。
やっと小屋にたどり着いた2人ですが、大雨が降って土砂が大蛇のうねりのようになって小屋の下を流れてゆきます。
そんな中をパ二は、出てゆこうとします。
離れた山に1人でいるプルネという友達を心配していたのです。
ツトムが止めるのも聞かずに嵐のなかを出かけていったパ二は、3日経っても帰ってこなかったため、ツトムは勇気を出して・・・
ネパールという日本とは全く違う文化と生活に、私たちはツトムを通して追体験をすることができます。
色いろな生活や気候風土、考えの違いをツトムと一緒に肌で感じて、こんなにも違うんだと思うと同時に、怒ることや心配すること、喜びや悲しみなどの感情を一緒に味わって、やっぱり人間ってみんな同じなんだとも思ったりもしました。
どちらが良いとか悪いとか、
どりらが上とか下とかではなく、
色いろな違いをそのまま感じて、そのまま受け入れてみると、
自分の世界がその分だけ大きく広く豊かになっていくように思うのです。
★著者・大塚篤子さん
名古屋市生まれ。昭和女子大学卒業。
『海辺の家の秘密』(岩崎書店)で第23回日本児童文学者協会新人賞受賞、第19回日本児童文芸家協会新人賞受賞、『おじいちゃんが、わすれても…』(ポプラ社)で第35回日本児童文芸家協会賞受賞。『いるるは走る』(小峰書店)など多数。
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