山のふもとで布団屋さんをしている一人暮らしのおじいさんの所へ、男の子がふとんを買いにきました。
おじいさんが小さな白ばらのもようのふとんを背負って、男の子の後をついて奥深い山の中へ届けに行くと、子供は急にいなくなって・・・
安房直子 作・田中槇子 絵/ブッキング
「ぼくは、子ぎつねのコンタロウです。とおいところを、ごくろうさまでした。おかげで、すばらしいふとんが手に入りました。ほんとに、おもいがけないことです。こぶしの時期に、のばらのふとんにねられるなんて、ぼくは、ほんとにしあわせです。」
おじいさんが背中のばら柄のふとんも、白いのばらの花びらになっていました。
コンタロウはひみつの庭に、ばら花びらを敷きつめてごろんとねころぶと、おじいさんも「ちょっとねてごらんなさい」とさそうのでした。
おじいさんも、子ぎつねのとなりにねころがってみました。花びらのふとんは、ふっくりとあたたかで、いいにおいがしました。
「いいねえ・・・。」
おじいさんは、空をみました。
山の空には、もう月が出ていました。
こぶしのような、やさしい月でした。
子ぎつねは、
「お月さん、こんばんは。」
と、いいました。おじいさんもまねをして、
「お月さん、こんばんは。」
と、いってみました。すると、月は、ゆらんとうごいて、すみとおった声で、
「こんばんは。」
と、こたえてくれました。
なんて豊かな情景でしょうか。
安房直子さんが作るお話には、あ「きつねの窓」「きつねの夕食会」「きつね山の赤い花」など、きつねの話がたくさんあります。
また、このお話のように、谷あいの町の小さなとうふ屋さんに、すずめが豆腐を買いにくる「すずめのおくりもの」、裏通りの手芸店にマントの裏地を買いに来た黒猫の「ひぐれのお客」、峠のみやげもの屋に猿がかぜ薬をもらいにやってくる「小さなつづら」など、お店に動物がやってくるというお話も山ほどみつかります。
そういうお店は、山間や村はずれなどの寂しい所で商いをしている孤独な人だったりします。やってくる動物たちも、みんないわくありげな不思議な動物たちなのです。
このふとん屋さんのおじいさんも、子供はいるのですが、息子も娘もみんな仕事や結婚して出ていってしまい、奥さんも亡くなって、1人で細々と商いをしていました。
子ぎつねも、やっぱりお父さんも母さんも亡くして一人ぽっちでした。
さて、おじいさんと子ぎつねコンタロウとの交流は、不思議な話だよねで終わることなく、さらにどんどん深まってゆきます。
おじいさんが山から帰っていくと、コンタロウが花と風を使って電話をかけるのです。こんなふうに……
花は、春のはじめだったら、すいせん。今ごろだったら、たんぽぽ。もうすこし先なら、つつじ。夏は、山ゆり、秋はききょう。
そんな花が、でんわ機になります。花がふるえだしたら、ぼくはいそいで、その花に口をつけて話をします。
おじいさんはコンタロウの所へよく遊びに行くようになりました。山でいっしょによもぎの天ぷらやたんぽぽのサラダなんかを食べたり、夏には蚊帳を持っていったりします。
秋が深まると、今度はこたつぶとんを持っていきます。たくさんの大粒のぶどうがなったこたつぶとんで、コンタロウがじゅ文をとなえると、こたつぶとんに描かれていたぶどうは、本物のぶどうになるのでした。なんて楽しい情景でしょうか。
おじいさんとコンタロウは、お腹いっぱいになるまでブドウを食べて、さらにぶどう酒まで作るのでした。
やがて冬になると、コンタロウは山ごもりして、山は深い雪に閉ざされてしまいます。おじいさとコンタロウとの交流も途絶えていくのですが・・・
花の一りんもなくなった山からは、でんわもきません。
さびしいなあと、おじいさんはおもいました。
そんなある朝、おじいさんは、だいどころへいって、戸だなをあけてみました。
すると、あのぼどう酒が、とろりとできあがっているのです。
おじいさんがぶどう酒を飲んでみると、なんと、ぶどう酒にコンタロウのようすがうつってきます。
コンタロウのぶどう酒にもおじいさんのようすが・・・・
安房直子さんのお話はファンタジーでありながら、メルヘンの要素を色濃く含んでいるようです。
たとえば、あまんきみこさんの「車の色は空の色」は、あくまでも人間寄りでお話が進んでいき、不思議な出来事だったなあと、運転手(人間側)がふり返ります。
安房直子さんのお話は人間のおじいさんからお話は始まりますが、子ぎつねの正体は早いうちからわかってしまいます。そして、そこからの話がとても長く深いのです。
「コンタロウのひみつのでんわ」でも、もう最初の頃に、コンタロウは正体を明かしています。ところが、おじいさんと子ぎつねとのお話は、ここからどんどん深まっていくのです。
おじいさんはいつしか子ぎつねを自分の孫のような眼差しで見ているし、子ぎつねのほうもおじいさんを本当のキツネのおじいさんのように懐いています。
これは安房直子さんが、2人を見守る視線がとても柔らかいからです。
安房直子さんが書いた作品では、「きつねの窓」や「白いおうむの森」など、深い寂しさや悲しみを内包した動物の作品が多いのですが、この作品は心がポッと温かくなるような素敵なお話になっています。
花の電話やふとんの魔法も素敵だし、月や風にも命を吹き込んでいます。
大人はなぜ?と理屈が必要なお話でも、柔らかな子供はするっとお話の中に入っていって、寂しいおじいさんやコンタロウと一緒に楽しく遊べるのです。
挿し絵のコンタロウもとてもかわいいですね。風景もクレヨンで仕上げていて、とても斬新です。
まるで子供が描いたようにも見えるところが、きっと子供たちも親近感がわくことでしょう。
作者:安房直子さん
1942年、東京に生まれる。日本女子大学国文科卒業。大学在学中より、山室静氏に師事し、創作に励む。
『さんしょっ子』(小峰書店)で第3回日本児童文学者協会新人賞を受賞。その他、小学館文学賞、野間児童文学賞、新美南吉児童文学賞、ひろすけ童話賞など数々の受賞歴がある。
『風と木の歌』『安房直子コレクション(全7巻)』(以上偕成社)『遠い野ばらの村』(筑摩書房)、『北風のわすれたハンカチ』(ブッキング)、など多数。
絵:田中槇子さん
1942年、東京に生まれる。武蔵野美術大学卒業後、グラフィックデザイナー、アートディレクターを経て、現在、絵本、挿絵画家として活躍中。
著書は『ふたりのサンタおじいさん』『もりのぼうしやさん』『アルセーヌ=ルパン全集』(以上偕成社)『四姉妹文学の森』(小峰書店など多数)
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