マジミスった。なんだってオレ、こんなとこ選んじゃったんだろっ。
――エンジェル保育園。
屋根の上にある看板に目をやって、ため息をついた。
天使のにもつ/いとうみく 作/株式会社 童心社
斗羽風汰の中学校では、中学2年になると学校の授業の一環として5日間の職場体験をすることになっています。
クラスメートがコンビニやファーストフード店などつぎつぎと人気がある体験職場を決めていく中で、風汰はやる気がなく、いつまでも希望カードを出していません。
最終的に希望したのは、エンジェル保育園。理由は、「子供と遊んでいればいいってこと?」という短絡的な考えから。それは伏せて、希望カードを出す風汰。
できれば別の職場をすすめたい、というのが担任の本音ですが、結局は本人の希望なので、先生はこう言います。
「いいか、あまり子どもにさわるな」
「へ?」
「子どもは生きものだってことを忘れるな」
「なんだよそれ」
風汰は石塚が差し出したカードを、人さし指でひょいとつまんだ。
「大丈夫か、本当に」
「大丈夫っす」
本当に大丈夫なのか、斗羽。
この先は、なんとなく予測できますね。小さな子供の面倒を見るのが、どれほど大変なことか、賢明なあなたにはわかるでしょう。
そうです。早速といいますか、初日にして風汰はそのことに気づきます。
それで冒頭の言葉になるわけです。(笑)
全園児50人ほどの小さい保育園です。用務員のような園長先生と、姉御肌の保育士の林田さん、野生児のような子供の集団にてんてこまい、戸惑うことばかりですぐに疲れ果ててしまいます。
思わず木製のロッカーに手をついたとき、「カンチョ―!」というあどけない声と同時に、尻を突かれた。
「ぎゃ!」
頼む。
少しでいい。
ほんの少し、ひとりにして。
放っておいて……。
風汰はトイレへ逃げ込み、個室に飛びこんでほっと息をついた。
なんだか大変さが目に浮かぶようですね。
ただ彼は中2です。体力があるので、それで乗り切っちゃいます。ここはうらやましいですね。育児はやはり体力勝負……としみじみ思います。
そうやって頑張って保育園に行っているうちに、しだいに子供のことがわかってきます。無心で慕ってくる子供たちが、風汰にとってもかわいい存在になってゆきます。そして、母親に冷たくされているしおん君が気になりだします。
しおん君とは園外でも偶然出会ったりしますが、外ではまるで別人のような表情をしていたり、夜中に外に出ているのを見かけて、虐待されているのではないかと気になったりします。
一見、いいかげんな少年のように見える風汰くんですが、じつは捨て犬を拾ってきてかくまっていたりするような優しく素直な子でもあるのです。
しおん君の虐待が心配になった風汰は、しおん君の家を訪問したいので住所を保育士の林田さんに聞きますが、個人情報なので教えられないといわれます。
こっそり団地の自転車置き場の倉庫で飼っていた子犬も、ぐったりとして病気になってしまいます。
風汰は自分の無力さをかみしめて……
オレはなんにもしてやれない。なにかしてやれるほど、大人じゃない。なにが正しくて、なにをすることがこいつのためになるのかもわからない。守ってやる力なんてない。
だいたいオレ、アホだし。
でも、いまこの瞬間にしてやれることだったらわかる。
……風汰くんに、してやられましたね。
風汰くんが出した答えは、ここに書くのはやめておきましょう。やはり本を読んでください。
ちなみにエンジェル保育園の園長先生から送られてきた『職場体験・評価表』もなかなかのものでした。これを担任の石塚先生は、どう受け取るでしょうか。
まあ、それはいいです。
ただ間違いなく風汰くんは、愛されキャラで、将来どんな仕事についても楽しく人生を生ききるような気がします。
作者・いとうみく
神奈川県に生まれる。『糸子の体重計』(童心社)で第46回日本児童文学者協会新人賞、『空へ』(小峰書店)で第39回日本児童文芸家協会賞を受賞。
全国児童文学同人誌連絡会「季節風」同人。作品に『かあちゃん取扱説明書』『アポリアーあしたの風ー』(共に童心社)「車夫」シリーズ(小峰書店)『カーネーション』(くもん出版)『ぼくらの一歩30人31脚』(アリス館)『トリガー』(ポプラ社)『朔と新』(講談社)など多数。
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