きつねのコンチが仲良しのぶたのトントを待っていると、
知らないくまのおじさんがやってきて、「このあたりに、カシの大木を知らないかね」
と、聞いてきました。
コンチは大木はわかりますが、カシの木がどんな木なのかわかりません。
町はずれの丘の上に、一本すっくと立っている、大きな木のすがたを思いだしたのですが、
「でも、あれは、カシの木じゃない。丘の木だ。」
小声でつぶやくようにいいました。
丘の木ものがたり/森山 京 作・ふくざわゆみこ 絵/講談社
トントがおくれたのには、わけがあります。
おねしょをして、お兄ちゃんやお姉ちゃんに笑われたのがいやで、家出をしようとリュックに荷物を入れてきたからでした。
だけどコンチになぐさめられて、また家にもどることにしました。
その日の夕食のとき、トントのお父さんが、丘の木がある広い土地が売れたというのです。丘も、丘の木も、原っぱも、ぜんぶひっくるめて、有名なホテル王のくまさんが買ったという話でした。
お姉ちゃんはかっこいいホテルができたら、お客もおおぜいくるし、町が有名になると言って喜びますが、お母さんは、
「まあ、なんてことを!あなたには、丘の木のよさが、なにもわかってないのね。あそこに丘があり、木があることで、長い年月、わたしたちがどれほどいやされてきたか。もしホテルができてごらん。今までのように気軽に近づいたりは、できなくなるのよ」
と言います。じっさい、丘の木は町のみんなの宝物のような木でした。
この晩、トントはまた兄弟におねしょをからかわれて、ついに家出をします。
足が向いたのは、なぜか丘の木でした。
走って、走って、もうちょっとで丘の木というところで、何かにつまづいてトントは転んでしまいます。なんとそこには、ジーパンをはいたくまさんが寝袋で眠っていたのでした。
くまのおじさんはホテル王で、バイクに乗ってなんどもここへ下見にきていたのだといいいます。
くまおじさんの本心は・・・
つい最近、神宮外苑の銀杏並木が伐採されるという話があって、それを住民や心ある人達の活動で、銀杏並木が残されることになったという話があったばかりです。これには拍手喝さいをしたいです。
再開発を繰り返す日本の都市開発ですが、本当の豊かさとは何なのかを考えさせられます。高い立派なビルは建ったけれど、そうして、だれもいなくなった・・・とならないことを祈るばかりです。
さて、この本では、ラビおくさんがこう語っています。ラビおくさんというのは、うさぎのおくさんのことです。
ラビおくさんは、日ごろから丘の木をながめるのが大好きでした。それも近くでよりは、すこしはなれたところから、空にむかってまっすぐに立つ、そのすがたを見るのが好きでした。
心の中のもやもやも、ざわめきも、いいようのないさびしさも、遠くの丘の木を見るだけで、うすらいでくるように思われました。
さて、丘の木の運命や、いかに?
ほんとうに価値があるものは何なのか。
ほんとうに心をいやしてくれるものは何なのか。
ほんとうの幸せとは?
小さな子ぎつねのコンチと子ぶたのトントが、楽しくそっと教えてくれるような本でした。
それにしても、こういう大きな樹が身近にある人は幸せですね。
作・森山京さん
東京都生まれ。『こりすが五ひき』で講談社児童文学新人賞佳作。
その後、「きつねのこ」シリーズ(あかね書房)で路傍の石幼少年文学賞。『あしたもよかった」(小峰書店)で小学館文学賞を受賞。『まねやのオイラ旅ねこ道中』(講談社)で野間児童文芸賞を受賞。他著書多数。
みなさん、こんにちは💛
いつもご訪問をありがとうございます。
いつもクリックありがとうございます💛^^
↓ ↓ ↓
にほんブログ村