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魔術/芥川龍之介/児童文学・童話/感想・レビュー・あらすじなど

「―御覧なさい。この手をただ、こうしさえすればいいのです」

ある時雨の降る晩、若い魔術の大家、ミスラ君が魔術を見せてくれました。

ミスラ君は、魔術は誰でも造作なく使える、と言います。

ただ、習得するのには一つ条件があったのでした。

 

魔術/芥川竜之介・作/宮本順子・絵/偕成社

 

ミスラ君というのはインド人で、竹藪に囲まれた古く小さな西洋館に住んでいました。

うす暗いランプの光で照らされた部屋で、ミスラ君は摩訶不思議な魔術を使ったのですが、感嘆する私にミスラ君は、

「私の魔術などというものは、あなたでも使おうと思えば使えるのです」と言うのでした。そこで是非、魔術を教えてもらおうと頼みます。すると、

 

「ただ、欲のある人間には使えません。ハッサン・カンの魔術を習おうと思ったら、まず欲を捨てることです。あなたにはそれが出来ますか」

 

「出来るつもりです」と私は答え、その晩は魔術を教えてもらうために、御婆サンに寝床の仕度をしてもらいミスラ君の家に泊まったのでした。

 

それからひと月経って、銀座のある倶楽部で友人達と談笑していると、話は魔術のことになりました。皆にせがまれて、魔術を披露することになりました。

 

「よく見ていてくれ給えよ。僕の使う魔術には、種も仕掛けもないのだから」

 私はこう言いながら、両手のカフスをまくり上げて、暖炉の中に燃え盛っている石炭を、無造作に掌の上へすくい上げました。

――その掌の上の石炭の火を、しばらく一同の眼の前へつきつけてから、今度はそれを勢いよく寄木細工の床へ撒き散らしました。

その途端です。窓の外に降る雨の音を圧して、もう一つ変わった雨の音が俄かに床の上から起こったのは。と言うのはまっ赤な石炭の火が、私の掌を離れると同時に、無数の美しい金貨になって、雨のように床の上へこぼれ飛んだからなのです。

 

欲を持ってはいけないので、金貨をまた元の暖炉の中へ抛りこんでしまおうとしたら、友人達に反対をされました。そこで骨牌(かるた/トランプのこと)で決めることになります。私がどんどん勝って金貨をもどそうとしたら、友人が「私の全財産を賭ける」と言い出したので、私は……

 

「御婆サン。御婆サン。御客様ハ御帰リ二ナルソウダカラ、寝床ノ仕度ハシナクテモイイヨ」

 

聞き覚えがある声がして、私がはっとすると、どういうわけか私はまだミスラ君の家にいたのでした。しかも、ひと月ほど経ったと思ったのは、ほんの二、三分の間に見た、夢だったのでした。

 

その二、三分の短い間に、私がハッサン・カンの魔術の秘法を習う資格のない人間だということは、私自身にもミスラ君にも、明らかになってしまったのです。

 

欲というのは難しいものです。

私は欲は必ずしも悪いことばかりではないと考えています。

空を飛びたいという人間の欲で、飛行機が出来ました。生活を楽にしたいという欲で家電が開発されました。

スポーツでも科学でも芸術でも、勝って世界一になりたいという欲で、上手くなったり科学が発展したりすばらしい芸術が誕生しています。

しかし反面、欲によってさまざまな苦悩も生まれていることも事実です。

 

芥川龍之介は魔術と言う手法を使って、人間の持つ欲深さを鮮やかに描きながら、ラストはここですっと話を閉じています。あざやかですね。

そこで欲の持つ底深い恐ろしさが、こんな短い作品からも余韻となって深く胸に滲みてきます。

これも天才によるすばらしい文章の魔術なのでしょうか。

 

芥川龍之介氏

1892年東京に生まれる。東京帝国大学英文科卒。久米正雄等と第3次、第4次『新思潮』を創刊して文学活動を始め、夏目漱石の門下に入った。

『鼻』『芋粥』によって新進作家として認められ、新理知派の代表作家として多数の作品を発表。作品は『芥川龍之介全集』(全8巻・筑摩書房)に網羅される。

 

 


魔術 (1年生からよめる日本の名作絵どうわ) [ 芥川龍之介 ]

 

 


芥川龍之介 01「魔術」 / 芥川 龍之介 (オーディオブックCD) 9784775929193-PAN

 

 

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